繋がる想い

 あれからシグレは毎日、ルカを抱いた。いや、抱かれたというべきか。彼女と肌を合わせるたびに、シグレの身体は回復していった。

 このような不思議な事があるのだろうか。あれほど破壊され、殆どの機能を失ったと思っていた腕が、また自由に動かせるようになったのだ。

 もちろん、元通りに剣を振るうのは難しい。しかし、これまでの惨状を考えれば、手足が動かせるだけでもありがたい。

「ルカ、感謝する」

 ここまで回復したのも、ルカのお蔭である。彼女が居なければ、自分はとっくに死んでいたに違いない。

 正直に言えば、彼女がなぜここまでして自分に尽くしてくれるのか、未だによく分かっていない。分かっていないし、分かろうとするのが怖い。それでも、ここまでしてくれる彼女に、そろそろ報いなければならないと思う。彼女の言う『愛』とやらを、もう一度信じてみようかという気になる。

 その為には、まずは疑問に思っていた事をはっきりさせたい。それは、彼女が月に一度、何処へ行くのかという謎である。

 新月の晩になると、必ず居なくなる彼女。これまでの行動を考えれば、浮気ではないのは一目瞭然である。いや、自分がそう思いたいだけなのかもしれない。一度は女の事で破滅を迎えているだけに、その部分をはっきりさせたいと思う。

 だからシグレは、絶対にその謎を解き明かそうと心に決めていた。




 そして新月の晩、シグレは密かに起きていた。感覚を研ぎ澄ませて、全神経を集中させる。いくら腕の機能が落ちたとはいえ、元は反魔物都市マリスでも指折りの剣士だった男である。身体が回復した今なら、人の気配を読むことなど簡単である。

 日が暮れる前から部屋には注意を払っている。ルカが外に出ていないのは確信していた。

 シグレは周囲に注意を向け、そして怪しいと思った場所に検討をつける。物陰にジッと潜んで、一体どうするというのだろうか。シグレはそう思いながら、気配を探る。

 居た。間違いなく、彼女の気配である。何で今までこんな事に気付かなかったのだろうか。それだけ心が乱れていて、周囲が見えなくなっていたのだろう。

 シグレはそっと起き上がり、ベッドから降りる。そして真っ直ぐ物陰へと向かっていき、用意していた灯りをともした。

「……ルカ?」
「ふぇぇ……ごめんなさいぃ……」

 シグレの目の前に居たのは、見た事も無い少女。今まで散々見てきたフィーナの姿とは、似ても似つかぬ容姿であった。

「お前、その格好……」
「ごめんなさいごめんなさいっ! 実は私、これが本当の姿なんですっ!」

 シグレがまだ何も言わないうちに、あっさりと白状するルカ。シグレはルカの本当の姿を目の当たりにして、呆気に取られる。

「今まで騙してごめんなさいっ! そ、その……やっぱり私じゃあ、魅力なんてないですよね?」

 泣きそうになりながら、というか既に泣きながら謝罪を繰り返すルカ。その彼女の涙を見て、シグレは我に返る。

 いくら姿形が変わろうとも、ルカはルカである。本人は自分の事を魅力が無いと言うが、シグレから見れば充分に魅力的であった。

 黒ずくめの服を着ており、地味な格好をしているものの、黒髪はつややかで大きな瞳はくりんとしており、うっすらと赤みを帯びた頬も綺麗で、艶やかな唇も魅力的な美少女ぶりである。身体は確かに貧弱かもしれないが、抱きしめればすっぽりと腕の中に納まりそうで可愛らしい。

 今ようやく、シグレはルカの正体を悟った。失恋して傷心の男の前に現れるという魔物、ドッペルゲンガー。彼女のお蔭で、いや、彼女だからこそここまで立ち直れたのだ。

「お前、ドッペルゲンガーだったんだな」
「ふぇぇ、黙っててごめんなさい」
「いや、かまわん。お前のお蔭で、また生きようという気になった」

 彼女には感謝してもしきれない。シグレには、もうルカしか見えていない。一時は絶望のあまり自ら命を絶とうとし、幸せも何もかも背を向けて粋がっていた自分。こんな奴を、ルカは救ってくれたのだ。彼女はまさに、絶望の縁に舞い降りた天使。

 もう、離さない。同じ失敗は、繰り返さない。他の奴には、絶対に渡さない。シグレはルカの腕を掴み、引き寄せる。

「――ふぇっ!?」
「おい、ずっと俺の傍に居てくれ」

 突然の出来事に驚き、フリーズするルカ。だが、シグレのプロポーズとも取れる言葉を聞くと、彼女もまたシグレに自らしがみ付いた。


*****


「ああんっ! あんっ! あっ、ああっ……ああんっ、シグレさんっ! シグレさぁんっ!」
「ルカ、もう離さねえ」

 シグレの腕の中で、快感のあまり喘ぎ声を漏らし続けるルカ。そんな彼女の身体をシグレはしっかりと抱きしめる。そして、対面座位の状態で彼女に自身の証を刻み付けていく。


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