土砂降りな状態の中、俺が外出先から帰った時、その女は家の前で雨に打たれて震えていた。屋根の下に入って雨宿りをしていたようであるが、横風が激しく全身ずぶぬれとなっていた。
俺は可愛そうになり、その女を家の中に入れた。その女はラージマウスのような耳を持ち、手足に白い毛皮がある魔物娘であった。そして、武芸者のような格好をしている。ラージマウスの武道家とは珍しい。俺自身、武術とか剣術の才能は皆無であり、とても武者修行とか考えられない。
おっと、風呂の準備を忘れていた。それに夕食の準備もしなければ。優先順位を考えて、まずは風呂を沸かすのが先か。ずっとずぶ濡れで居たのだから、早く風呂に入れないと風邪を引いてしまう。……魔物娘って、風邪引いたっけ? まあいい、とりあえず温まった方が良いのは間違いない。風呂を急いで沸かした俺は彼女を風呂に追いたて、夕食の準備を始める事にした。
*****
女は湯船に浸かりながら、男のことを考えていた。
今まで武者修行で諸国を旅して回ったが、ここまで親切な人間は居なかった。魔物と見れば、皆彼女を避けてきた。しかし、彼女自身も人間に興味は無いそぶりを見せてきた。
自身はこれまで、闘争心に従って拳を振るってきた。あるいはそれは、自分の中にある不安とかを隠す為だったのかもしれない。
しかし、大雨に見舞われ、一人でずぶ濡れになりながら雨宿りしていた時、今まで感じたことの無い寂しさを感じた。水に濡れて毛皮の火が消えたとき、彼女は言いようの無い不安に襲われた。
物心ついたときから一人であった為、一人には慣れていた筈である。しかし、初めて人の優しさに触れた時、彼女はなんとも言えない温かさを感じた。それは決して、今浸かっている湯船のせいだけではない。
自分自身がこんなに臆病で寂しがりやだとは。そして、それを改めて自覚させたこの家の家主……。
「…………」
彼女はとある決心をし、ザバッと湯船から出た。
*****
夕食の準備をしていた俺は、背後で風呂から誰かが出てくる音を聞いた。どうやら入浴を終えたらしい。
「随分早いな――」
俺は背後の女に声をかけながら振り向き、そしてフリーズした。
「――お、お、お前っ! 何て格好してんだっ!」
女は、素っ裸だった。俺は慌てて顔を背け、女に背を向ける。しっかりと見てしまった。妖艶な鎖骨の辺りとか、たわわに実ったおっぱいだとか、くびれた腰に、アソコの部分……。全部、目に入ってしまった。
「早くっ、早く服を着てくれっ!」
ずぶ濡れで居たのだから、彼女が着替えなど持っている筈がない。そのことを忘れる程に、俺は動揺していた。そんな俺の背に、その魔物娘が抱きついてくる。
「私を、抱イテ?」
「はいぃぃっ?!」
そして、その魔物娘の言葉に、俺はますますパニックになる。
(何だと? 今、何て言ったんだ?)
自分の耳で聞いた言葉が信じられず、俺は思わず背後の女を振り返った。そして、間近で見た彼女の顔に、衝撃を受ける。
(ヤベえ、滅茶苦茶可愛い……)
潤んだ瞳に、眉尻の少し下がった表情。そして滑らかな頬のラインに、艶やかな唇。少し上気した頬が、色っぽい。彼女のあまりの美少女ぶりに、俺は何も言えなくなってしまう。要するに、一目惚れである。
「私、寂しかったアル。今まで一人旅したケド、さっき雨に打たれた時、急に一人が辛くなったアル。だから、貴方に優しくされた時、嬉しかったアル」
「そ、そんな理由で……」
俺は、彼女の言葉に唖然とする。困ってる人に親切にするのは当然ではないか。その程度の理由でお礼など、あまりに貞操が軽い気がした。
しかし、彼女は俺のその考えを否定する。
「これは、お礼じゃないアル。私、お前惚れたアル。今まで親切してくれた人、誰も居なかた。皆、見て見ぬ振りアル。たとえ目の前で人倒れてても、皆素通りアル。でも、貴方違う。私、貴方の傍居たいアル」
カタコトの言葉で、かきくどくように言う彼女。倒れてても素通りって、どれだけ殺伐とした世界に居たんだ? そう思う俺であったが、もはや彼女を拒絶する事は出来ない。
彼女は俺の頭を両手で挟み込むように掴むと、そのまま口付けてくる。当然、俺は避けられない。いや、避けない。彼女の唇と俺のそれがゼロ距離になり、そのまま貪られる。
「んっ、んむっ……んふぅ、ん、ちゅっ、ちゅむっ……」
蕩けた目で俺を見ながら、キスを続ける彼女。その彼女の様子に、だんだん俺も引き込まれていく。彼女の唇は柔らかく、それでいてねっとりと甘く、熱い。そこに彼女の思いまでが込められているようで、だんだん俺も彼女が欲しいと思うようになってしまった。
「ちゅぱっ……ぷはぁっ! す、好きアル
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