処刑当日の日に助け出されたシグレ。だが、マリスに留まり続けるのは不可能であった。
彼はデルエラやルカたちによって西方の魔物領・レスカティエに護送された。そこならば精神的に落ち着くのではないかと思われたし、またサキュバスとかダークプリースト等の治療魔法を使える魔物が居る事も都合が良かった。
だが、そのシグレを治療する過程で、重大な問題が発生するのである。
「む、無理なんですかっ!」
シグレの治療を担当していたダークプリーストの言葉に、ルカは叫び声をあげる。
「私に出来るのは、当人の回復力を高める事です。ここまで筋組織がズタズタにされてると……」
そのダークプリーストは、申し訳なさそうに言う。だが、自身の治癒能力では実際にお手上げなのだからどうしようもない。
シグレの身体の損傷は、深刻なものであった。両腕の肘を砕かれている事は既に述べたが、それに加えて腕の筋組織もぶった切られており、もはや本来の機能は失われていた。そして甲に杭を打ち込まれた左足も適切な治療を施されなかったので、骨まで歪んでしまい、歩行にも支障が出るほどであった。
ここまで破壊された身体では、もはや剣士としての命脈は絶たれたも同然であった。それどころか、力を入れる事さえままならないはずである。折られた骨は何とか繋ぎ合わせても、一度切られた筋組織はもう、彼女の治癒能力では元には戻せない。
今は、シグレは眠っている。よほど心労とか様々な疲労が激しかったのであろう。処刑上からの救出激以降、ずっと眠ったままである。次に目覚めたとき、寝たきりの身体にされた彼は、何を思うだろうか。
「……ですが、方法が無い訳ではありません」
ルカが悲しみのあまり涙に暮れていると、ダークプリーストが言葉を続けた。その一言に、ルカは涙でぐちゃぐちゃの顔を上げた。
「――ほ、本当ですかっ! 是非教えてくださいっ!」
彼を救うためなら、何だってする。ルカはダークプリーストからその方法を聞き出すべく、ずいっと身を乗り出した。
*****
「ここは……」
荒涼とした荒野で、シグレは一人立っていた。本当に辺りには何も無く、果てしなく草木一本も生えていない地面が広がっているのみである。
『シグレ……コロス』
だが、誰も居ない訳ではなかった。背後で声がして、シグレは振り返る。目の前には、むさ苦しい襤褸を纏った一人の男。最愛の女、フィーナを奪った、あの憎むべき男が――。
「――殺すのは、俺の方だ」
右手に剣を持っている事に気付いたシグレは、その剣を相手に向ける。相手も腰の剣を抜き、シグレに向かって構える。そして、ジリジリを迫る。
相手の攻撃を、待ってやるつもりは無い。シグレは自ら攻勢に出た。憎むべき奴に、情け容赦は無用。絶対に斬り捨てなければ、気が済まない。
シグレを斬ろうと、相手の腕が上がる。その腕を、シグレは叩き斬った。
「遅いっ!」
そんなノロノロした動きでは、俺を捉える事は不可能。そう言いながら、シグレはどんどん剣を振るって相手を切り刻んでいく。相手をバラバラにするのに、時間はかからなかった。終わってみれば、シグレの足元に大量の肉片が散らばっていた。
だが、これで終わりではない。別の者の気配を察して、シグレは周囲を見回す。
今まで一体どこに潜んでいたのだろうか。シグレの周囲には、先ほどの男と同じく襤褸を纏った者どもが取り囲んでいた。シグレは、それらの顔に見覚えがあった。皆、かつてシグレが斬り殺した連中である。
(――そうか、分かった。もしかすると、ここは死後の世界か)
シグレがその結論に達したとき、そいつらが口を開いた。
『シグレ……よくも俺らを斬ったな』
『同じ苦しみを、味わわせてやる……』
そいつらは一斉に剣を構え、シグレに迫る。それらを、シグレは斬った。動きが遅いから、数だけ揃えたところで無意味。シグレはそう考え、余裕を持って剣を振るっていた。だが、その考えが甘かった事にすぐに気付く。
斬っても斬っても、そいつらは何度でも立ち上がってきた。その姿は、まるで死人のようだ。
いや、実際そいつらは死んでいたのかもしれない。死んでもなお、男を殺そうという執念を見せている。
シグレに斬られ、片腕がもげた奴がいる。顔面の半分が崩れ、頭蓋骨が見えている奴や、腰を両断されて上半身だけで這って来る奴も居る。見るのもおぞましいその様子、普通ならば耐えられずに正気をなくし、そのまま餌食となるだろう。
(そうか! これが無間地獄ってやつか――)
かつて聞いた事がある、死後の世界。生前に罪を重ねた者は、死後に地獄へ落とされる。放火魔は地獄で永遠に火あぶりを受け、盗みを働いた者は永遠に飢餓で苦しむ。そして
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