夜更け、彼女たちは東にある入り口から廃坑へと潜入した。
マルガの手にしたランタンが闇を切り裂く。
「全く良く気がつく女だぜ。いい嫁になるんじゃないか?」
彼女が手にしたソレはいざという時シャッターを下ろす事で
灯りを消す事ができるスグレ物だ。
アッシュの軽口を修道女は完全に無視して先に進む。
「やれやれ…、肩に力が入りすぎだぜ」
青年は苦笑し、彼女を追いかけた。
「ところでシスターは何で死神を追ってんだ?」
アッシュは懲りずにマルガの背中に問いかけ続ける。
「………」
彼女の返事は無い。
「…仇討ちか?」
青年の言葉にマルガは思わず足を止めた。
「どうして、そう思うの?」
振り返らずに彼女が問い返す。
「…そんな目をしている」
「知った風な口を聞かないで…!」
再び歩き出した修道女の背中へアッシュは心の中で呟いた。
(知っているさ。俺も…)
###############
どうやら自分はおしゃべりな男に縁があるらしい。
最近、マルガはそう思っていた。
ここの所、出会った男たちは皆、口の軽い連中ばかりだ。
ユアンは無口な男性だった。
ユアン自身の事もマルガは全然聞いた事が無かった。
けれど、それでも構わなかった。ユアンがどんな人間でも構わない。
私が好きになったのは出会った時の、今のユアンを好きになったのだから。
ユアンは孤独な男性だった。
だが、孤独ゆえ、ユアンは誰よりマルガを必要としてくれた。
そんな彼の傍にいられるだけで幸せだった。
だからこそ、ユアンの命を奪った、あの男だけは赦せなかった。
###############
山賊たちは坑道内のあちこちに藁や毛布を持ち込み、
それを寝床として休んでいた。
マルガとアッシュが構造図を頼りに進んでいると
前方に灯りが見え、足音が聞こえてきた。
足音から判断すると相手はどうやら1人の様だ。
アッシュは無言でランタン、続いて坑道の壁を指差す。
その意図を察したマルガはランタンのシャッターを下ろし、坑道の壁に張り付く。
あくびをしながら1人の男が通り過ぎていく。
その背後に忍び寄ったアッシュが背後から男の首へ組み付き、締め付ける。
頚動脈を締められ、十秒足らずで男は意識を失った。
2人は男を坑道の奥へと引きずっていき、壁際に座らせた。
アッシュは男に猿轡を噛ませ、縄で縛った後、頬をはたき、彼をたたき起こす。
目が覚めた男は突如自分に降りかかった災難に怯えていた。
「正直に答えれば、命だけは助けてやる」
男の目を見つめながらアッシュが低い声でそう言った。
「これから地図を指差す。お前たちのボスの居場所だったら首を縦に振れ」
男から山賊のボス―死神の居場所を聞き出した2人は
すぐさま、そこへ向かった。
###############
もうすぐ、あの男を追い詰める事ができる。
そう思うとマルガは今すぐにでも駆け出したい思いだった。
はやる気持ちがついつい歩調を速くする。
他の山賊たちに気づかれぬよう慎重に進んでいく。
けれど、この時の私は自分が思っているよりも
相当に高ぶっていたのだろう。
私は直ぐにそれを思い知ることになった。
###############
この先に死神がいる。
黒い修道服に身を包んだ女の身体に憎悪が滾っているのが見える。
このまま、彼女を先に行かせていいのだろうか?
そんな考えが脳裏をよぎる。
だが、アッシュにはマルガの背中を黙って見ている事しかできなかった。
###############
坑道を進む事、数分。
彼女たちは山賊から聞き出したボス―死神の寝床へと辿り着いた。
意を決してマルガが中に踏み込もうとする。
「止まれ。…手をゆっくりと上げろ」
背後から男の声が聞こえ、彼女の背中に固いものが突きつけられた。
隣を見れば、アッシュも同じ様に手を上げている。
気がつけば、2人の背後に山賊の1人が立っていた。
彼は2丁の拳銃をそれぞれの背中へと押し当てている。
最後の最後で2人とも油断してしまったらしい。
「ゆっくりと前に進め」
男に命じられて2人は寝床へと入った。
「ボス、侵入者です」
2丁拳銃の山賊が坑道の脇に寝転がっていた男に呼びかけた。
低い呻き声が響き、ボスと呼ばれた男はゆっくりと半身を起こす。
その男は死神の名の通り不気味な雰囲気を持った怪人だった。
青い目は澱んだ色を湛え、整った顔立ちもどこか作り物めいた感じがした。
「女はここに置いていけ。男の方は外に連れて行って殺せ」
死神は酷薄な笑みを浮かべると部下にそう命じた。
「待って!」
山賊たちを刺激しないよう静かな声でマルガが叫んだ。
「…貴方が本当の死神なの? 噂じゃ、刺青があ
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