いままでとこれからと

「ボクたち…エッチしちゃたね」
 キールの膝の上でティムがはにかんだ様に笑った。
「まあ…な」
 その場の勢いとはいえ、今となっては複雑な心境なのだろう。
キールが歯切れの悪い返事をする。
「………ねえ、キールはボクの事…好きだから抱いてくれたの…?」
 上目遣いに彼女がそう問いかけてくる。
「ボクは…キールの事好きだよ…その…女の子として…」
 来た! しかも追い討ちまで!
確信に触れる質問にキールの喉はカラカラに渇いていく。
「俺は…」
 答えようとするキールをティムは真剣な眼差しで見つめてくる。
うう、その瞳は反則ですよ、ティムさん。
「俺も…お前の事が好きだよ…その…男として…」
 その答えにティムはそっと彼の胸にもたれかかった。
「…嬉しすぎて涙が出ちゃった」
 幸せそうに笑う幼馴染を見ているとキールの胸まで熱くなってくる。
ついでに股間も熱くなる。
「まだまだ元気だよね。もう1回戦する?」
 ニヤニヤ笑いながらティムが問いかける。
「そうだな…」

「ストォーップ!」
 男が答える前に横合いから制止の声が上がる。
「誰だ!?」「ラナ!?」
 近づいてきた女性を見て、キールとラナが同時に叫んだ。
「キミたちねぇ、こっちがどんだけ我慢してたと思ってんのよ!?」
 憤慨しながらサキュバスが姿を現した。
「ティム、知り合いなのか?」
 ラナを警戒の眼差しで見たまま、キールが問う。
「うん。ボクの…恩人?」
「何で語尾が疑問形なのよっ」
 憤慨しててもツッコミは忘れない。それがラナ・クオリティ。
「正確に言うとボクがこんな身体になった元凶かな。結果的には感謝してるけど」
 ティムはキールの横顔を見ながらそう説明した。
「それ一歩間違えたら人生滅茶苦茶にされてたって言わないか?」
「結果オーライよ」
「待て、お前が言うな」
 しれっと言うラナにツッコむキール。
「…ところでエッチはしないんじゃなかったけ?」
 彼女は話題を逸らすようにティムに視線をやる。
「あ…」
「ったくもう! 人が心配して追いかけてみれば、いきなり本番突入してるし!」
 彼女は両手を腰に当て、まくし立てる。
「だいたい、遺跡の真ん中でナニしてんのよ! 私が気を利かせて、結界を張っていなければ、
今頃、他の魔物に気づかれて、乱交パーティになっていたんだからね!」
 彼女の隠れた心遣いを知り、2人はしおらしく説教を聴く。
「何が『もう1回戦する?』よ! 隣でアンアンやられる、こっちの身にもなってよ!?」
 やっぱり、私情でした。
「ごめんね、ラナ」
 ティムは立ち上がるとラナへと歩み寄り、その手を取って笑う。
「ありがとう。全部、ラナのお蔭だよ。ボクたちが結ばれたのは」
「はあ、もう。キミって子は…」
 ティムの素直な言葉にすっかり毒気を抜かれ、ラナは大きく息をついた。
「それで、これから2人はどうするつもり?」
 ラナの台詞は2人を急激に現実へと引き戻した。
確かに2人の心は繋がった。だが、ティムが魔物である事には変わりない。
町にティムの帰る場所はもう無いのだ。
「しょうがないわね。最後に1つだけアドバイスしてあげるわ」
 ラナは溜息をつくとティムの耳元で何かを囁いた。
「それって何の…?」
 ティムはその言葉の意味を幾らか理解したようだ。
「私たちの種族に伝わる…いわば変身の魔法。いつまでも裸って訳にもいかないでしょ?」
とラナがからかうようにティムを見る。
「う、うん…そうだね」
 久しぶりに羞恥心を思い出したティムが身をすくめる。
「じゃあ、早速…」
 少女の口が不思議な韻律が紡ぐと彼女の肌の上を淡い光が走る。
瞬きの後、ティムは短い上着と短パンを纏った姿になっていた。
「うう…おへそがスースーする…っ」
 蝙蝠の翼と尻尾のせいで上着を長くする事ができず、彼女の腹部はむき出しのままだ。
「魔法に慣れれば、角や翼を消す事もできるわ。
そうすれば、人間に紛れて、暮らす事もできるでしょ」
「うん…本当にありがとう。ラナに出会えて良かった」
 ティムは再び、ラナの手を取って感謝を述べた。
「…私は残念だわ。キミがインキュバスになれば良かったのに」
 彼女は手を離し、くるりと背を向けてそう言った。
「せいぜい彼と仲良くしなさい…二度と遺跡で出遭わない事を願っておくわ」
 そういい残してサキュバスは遺跡の闇へと消えていった。
「…いい奴みたいだったな」
 ティムの隣にやって来たキールがそっと少女の手を握った。
「うん…」
 ティムは大切な人と指を絡めながら、小さく頷いた。

 ここから語るべき事はもうほんの少ししかない。
 この後、遺跡荒らしの男女のペアがちょっとした活躍をした事。
一財を成した彼らが静かな余生を送った事。
そして、遺跡が今日も在り続けているとい
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