第7回「四人の魔女と四人の使い魔(後編)」- マイ編 -

「何ですの…あの、空飛ぶ猥褻物陳列罪は…」
 空から舞い降りた変態を目で追いながら、白いドレスの魔女ゾフィーアが呆然と呟く。
「…彼女はマイ=コテツ。今度の大会の参加者の1人だよ。
一緒にいるのは彼女の魔具でもある使い魔の人だね」
 隣に立っているゾフィーアの使い魔(お兄様)の青年が彼女にそう説明する。
「使い魔が魔具って、反則ではないのですか?」
「それが反則じゃあないんだ」
 飛行魔法大会の規則(ルール)では自力で飛行する生物や魔具に乗っての参加は禁止されている。しかし、マイたちのケースに関して言えば、使い魔(お兄ちゃん)が飛行している訳ではないから、許可されているらしいと彼は続けた。

「では精の補給は? さすがに反則では?」
「いや、実は精の補給に関しては規則で決められてない」
 ゾフィーアたちの近くにいたリーリャの使い魔(兄さん)―黒い礼装の青年が口を挟んできた。
「レース中の飲食(水分補給など)は認められているし。そもそも摂取した精を魔力に変換するには時間が必要だからな」
 種族差や様々な条件にもよるが、取り込んだ精は直ぐに魔力へ変換される訳ではない。
「それでは彼女たちの行為も意味は無いのではありませんか?」
「特異体質…らしいな」
 彼は参加選手の公開プロフィールから得た情報を淡々と告げた。
「彼女は吸収した精を即座に魔力へ変換できる体質らしい」
「そんなのアリかよ」
 ヘザーの使い魔(兄やん)である青年がぼやく。
「アリだよ、兄やん。色んな魔物が参加できるレースだもん。規則は結構大雑把だよ」
 赤い飛行服の魔女ヘザーは苦笑しながら答えた。

 飛行魔法大会は競技の発祥がサバト由来とあって、競技人口の大半は魔女が占めている。
だが、魔女以外の種族の参加者も存在しているのだ。
 この世界に暮らす魔物は多種多様である。
そんな魔物たちが同じ方法で競い合う為に設けられた規則は最低限かつ緩いものであった。
細かく規則を設けていけば、キリが無いのだろう。

 飛行魔法によって飛ぶ事。
 他の参加者への暴力行為(攻撃)は禁止。

 大会の基本的な規則はそんな所だ。

「…あの人たち結構強い。油断しない方がいい」
 着地した緑髪の少女マイから目を離さず、黒いドレスの魔女リーリャがそう言った。
 彼女の身体から発せられる魔力の量は並の魔女のものではない。
他の参加者たちもそれを敏感に感じ取っているのか。
遠巻きにして、マイたちを注目していた。

 そして、深緑色のレザーボンテージに身を包んだ魔女マイはゆっくりと立ち上がった。
ぬぷりと彼女の秘所から使い魔(お兄ちゃん)の逸物が抜ける。
彼女は裸の青年の上から降りると悠然と周囲の群衆を見回した。
「…お兄ちゃん。やっぱりマイたち、注目のマトだよ♪」
「言っただろう? ヒロインは最後に登場するものだと」
 裸の青年は立ち上がりながら、指を鳴らす。
すると彼の下腹部にピンク色の光が集まり、ハートマークとなって股間を覆い隠した。
「そして、ヒロインたる者、周囲の視線を恐れていけない」
 彼は周囲によく通る渋い声を響かせる。
「…むしろ、視姦されるのは我々の業界ではご褒美です」

 どこの業界だよ。
全員が心の中でツッコんだ。

「本当に強敵なんですの?」
 こめかみを押さえながらゾフィーアが問う。
「…たぶん」
 リーリャは明後日の方向に視線を逸らして、自信なさげにそう答えた。

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「こぉらっ! おめぇら、このガラスはどうすんだ!」
 不意に甲高いダミ声が響き、群集の中から白髪の小柄な男が現れた。
男は皺だらけの顔に怒りでさらに皺を寄せながら、勇敢にもマイと変態の前へと進み出た。
 変態―全裸に蝶ネクタイの青年はくるりと男の方へと向き直り、にこやかな笑みを浮かべる、
「はっはっは、ご老人。大義をなす為には多少の犠牲は付き物ですよ」
 その軽やかな口ぶりは清清しいまでに反省の色が無い。そして意味不明だ。
「馬鹿言ってねぇで、弁償しろっ!」
 青年の態度に益々腹を立てて、初老の男ががなり立てた。
「ふーむ、しょうがありませんな。…幾らです?」
 彼は大げさに肩を竦め、やれやれと息を吐き出す。
 初老の男はチラリと天窓を仰ぎ、青年に額を伝えた。

 間。

 みるみる裸の青年の顔が青ざめ、土気色になり、そして元の色に戻る。
「ななな何ですとー!?」
 口を大きく開き、あらんかぎりの驚きの声を青年が発した。
「どしたの、お兄ちゃん?」
 隣で静かに成り行きを見守っていたマイが青年を見上げる。
「事件です、マイたん! 具体的には我が家の家計が逆転サヨナラホームラン!!
そりゃあ、風が吹けば桶屋が儲かるってなモンですよ!!」
 あたふたと彼は血相を変えてそう叫んだ。
「うん。
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