見上げた空はどこまで青かった。
風で散り散りになった雲の合間を海鳥たちがゆっくりと渡っていく。
「ちくしょう…」
呟いて、手を伸ばしても空へは届かない。
自由に空を飛ぶ鳥たちが羨ましく妬ましい。
もうどのくらい、こうして空を見上げているだろうか。
絶望と孤独が彼の時間感覚を麻痺させ、行動する気力を奪っている。
けれど、身体は正直なもので。
ぐぅと腹の虫が鳴り、その青年は気だるげに身体を起こした。
空きっ腹を抱えながら、彼はのろのろと立ち上がる。
このままでは本当に死んでしまう。待っていても助けは現れない。
現実は否が応にも彼を急き立てる。
立ち上がり、睨みつけるように周囲を見渡す。
眼前に広がるのは海の青。
彼は無人島で1人、絶賛遭難中だった。
青年は暗い表情で浜辺を歩く。
何か使える道具があれば、それで魚でも取るのだが…。
血眼になって、波打ち際を見下ろしながら進む。
「止まってえええええぇぇぇぇぇっ!!」
何の前触れも無く前方からそんな悲鳴が聞こえてきた。
はっとなり、顔を上げる。
誰もいない。
「お願いだからあああぁぁぁっ!?」
だが、悲鳴は続いている。
その声が前方の、それも空の方から響いてくるのに気づく。
不思議に思って、見上げれば、青い空に1つ。赤い染みが見えた。
その染みは徐々に大きくなっていき、やがて人間だと気づく。
(人間…? どうして人間が空に…?)
空中に人間と言う非常識な組み合わせに青年の思考が停止する。
それ故に。彼は迫り来る危険を回避するのが遅れた。
気づけば、その少女は前方上空から物凄い勢いで彼へと迫っていた。
箒(ほうき)に跨った赤い服の少女。その姿が目に焼きつく。
もはや避けられないタイミング。
だが、突然、箒の柄の先端がガクリと下を向き、砂浜へと突き刺さった。
ボキリと木の折れる音が響いたような気もする。
何故曖昧な言い方のかといえば、その直後、彼の意識も途切れたからだ。
「きゃあああああぁぁぁぁぁっ!?」
箒の上から放り出された少女がそのままの勢いで青年の上半身に激突する。
その衝撃で彼は吹き飛ばされ、意識を失った。
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青年は海辺の小さな漁村に生を受け、平凡に育ち。
そして、気がつけば、漁師になっていた。
彼は特別、漁師という職業に拘りがあったわけではない。
父親が漁師であり、漁猟の他に生計を立てる術がない。
いわば、流されるように漁師となった。
とはいえ別段、今の暮らしに不満があるわけでもなかったが。
その朝も青年はいつものように夜明け前、漁へ出かけた。
海は少し波が高かったが仕事を休む訳にはいかなかった。
なぜなら最近、漁に出ても魚が取れない日々が続いていたからだ。
今、思えば、少しは焦りもあったのだろう。
だから普段は立ち入らないあの海に入ってしまった。
彼は小さな帆船を操り、海へと乗り出した。
目指すは沖合いにある小さな島。
その島は島といっても小さな岩礁でできた無人島だった。
普段、村の漁師は近づかない場所。
理由は簡単。危険な海に浮かぶ島だからだ。
複雑な潮の流れに、島の周囲に存在する暗礁。
海を知る者なら避けて通る場所。そんな場所だった。
だからこそ、穴場とも言えた。
誰も立ち入らない海なら魚も残っているかも知れない。
そんな期待を抱いて彼はその海へと入った。
期待通り、それなりの収穫はあった。
しかし、彼は引き際を誤った。
夢中になって、漁に励んでいた為、風と空が変化していく事に気づけなかった。
逃げ遅れた青年は嵐に巻き込まれ…彼の乗った舟は波にさらわれ見事に転覆した。
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ぼんやりとした視界に最初に映ったのは白と黒の縞々だった。
青年は自分が砂浜の上に仰向けになっている事に気づいた。
どうやらさっきの衝撃で倒れたらしい。背中が酷く痛む。
彼は身を起こそうとして、自分に何かが覆いかぶさっている事を認識する。
柔らかい白黒の縞々が青年の顔を圧迫し、上手く呼吸ができない。
彼は空気を求めて、身を捩りながら喘いだ。
「ひゃうっ!? 変なトコ、触らないでっ!」
突然、青年の頭上で悲鳴が上がった。
彼の顔を圧迫していた縞々が飛び上がるように離れる。
「ぶはっ!」
解放された青年は大きく息を吸い込み、頭上を見上げた。
そこには白黒の縞々とそこから伸びる2本の肌色が見える。
「あー…えーっと…」
「…ヘンタイっ!」
それが少女のパンツと太股だと気づいた時、彼の顔に彼女の膝がめり込んでいた。
「いてて…」
「だ、大丈夫?」
鼻を擦る青年を彼女
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