キマイラと優柔不断

「これにしようかな……それとも……こっちがいいかな?」
「どれでも同じじゃねーか。早く決めろって」

 デパートのキッチン用品のコーナー。僕はとある事情があってキマイラのアースト、ビーク、シールン、ディーマスと一緒に暮らすことになったんだ。
 ちなみにアースト、ビーク、シールン、ディーマスはキマイラの人格の名前で、それぞれちゃんと名前で呼ばないと怒るんだよ。
 雰囲気でわかることもあるけど、まだ出会って日が浅いので時々間違えちゃっうこともある。
 仕方ないよね?

「いやでも……アーストだってお気に入りのマグカップの方がいいじゃない?もし間違えて違う感じのカップを買ったら……あとで後悔すると思うんだ」

 今悩んでいるのは自分用のマグカップを選ぶこと。
 マグカップぐらいはプレゼントしようとやってきたけど、ついでに自分の分も買ってしまおうと思ったのが間違いだった。一度悩みだすといつまでも悩んでしまう。それが僕の悪い癖だ。

「適当に選べばいいじゃねーかよ。んなチンタラしてたら……ら?……」

 ピタッ、とキマイラ……今はアーストが虚空を見つめたまま固まった。
 すると今度はさっき選んだ炎のイラストがついたマグカップを元のところに戻し、また別のマグカップをとってきた。

「やはり私の手でもつかめる取っ手の大きなマグカップがいいと思う。デザインも大事だが、やはり機能性を考えねば……」

 さっき持っていた炎のイラストがついたマグカップではなく、取っ手が大きな黒いマグカップを持ってきたのは……冷静な口調だからビークだと思う。

「へぇ、ビークはシンプルだけど使い勝手がいいのを選ぶんだ……だったら僕のマグカップも使いやすそうなヤツを選ぼうかな」
「ふむ。ならばこっち黒いマグカップはどうだろう?シンプルだが十分使い勝手が……が?……」

 ピタッ、とまた固まってしまった。
 すぐに動き出し、また黒いカップを元の場所に戻して今度はハートのマークが書かれたマグカップを二つ、持ってくる。

「やっぱり愛する二人はこういったペアカップがいいと思うの。だってそうでしょ?こんなにも私との生活で使うマグカップを悩んでいるのですもの。愛し合ってる証拠だわ。恋人らしいマグカップを選んだって不思議じゃないと思うの」

 甘く、優しくだきつくように身を寄せるキマイラ。
 この感じは……シールンだな。いつも僕が悩んでいるときに優しく導いてくれる、頼れるお姉さんだ。

「なるほど。確かにペアカップってのもアリだね。そうしよっかなー……」
「そうするべきよ。それに……もしこれを買ってくれるなら、帰ったら私が優しく……く?……」

 ピタッ。
 また虚空を見目ならが止まってしまった。
 何度も見ている光景だけど、まだ慣れないなぁ。
 また選んだマグカップを元の場所に戻し、今度は何も持たずに帰ってくる。

「……ねぇ……なんで他ワタシが選んだマグカップを選ぼうとするの?私言ったよね?『私も同じマグカップにする』って……他のマグカップを選ぶより、あなたが選んだマグカップを選ぶわ。だってそうでしょ?……他の『ワタシ』が選んだマグカップを使うなんて不自然ですもの。どうせなら、あなたが選んだ同じマグカップを使いたいわ。あなたが飲んで、その後に私も飲むの。そうすれば、いつも一緒に……に?……」

 ピタッ、と止まりまた動き出す。
 さっきのはディーマスだな。
 いつも僕に合わせてくれようとするんだけど、いつも話が長くて普通に話せたことがないんだよね。
 いつかはじっくり話してみたいけど、話が終わる前にこっちから話したほうがいいかな?
 それとも、話が終わったあとで僕の話をしようか……

「いつまでもチンタラ選んでんじゃねーよ!」

 あ、今度はアーストか。
 ずんずんと炎のイラストがついたマグカップを『また』とってきて戻ってくる。

「お前がいつまでもチンタラやってるから他の連中も出てきちまったじゃねーか!早くしろ!!」
「だって……大切なマグカップだよ?これから寒くなるし、できれば毎朝お気に入りのマグカップを……」
「だぁ〜っ!お前に任せてたら日が暮れちまう。ほらっ、私と同じマグカップに……に?……」

 またピタッとまた止まってしまった。そして……

「何を言っているのだ。使い勝手も何も考えずに見た目だけで選ぶとは何事か!」

 ピタッ

「それはこっちのセリフよっ!なんでそんな地味なヤツを選ぶの?一緒に暮らすならそれなりの……」

 ピタッ

「選ぶ必要なんてないわ。だって……わたしも同じカップを使うんですも……」

 ピタッ

「だからっ、それじゃ飲む量が減っちまうだろうが!お前らがグチグチ言ってるから私が選んでやってんのにっ!」

 ピタッ ピタッ ピタッ

 何度も
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