すぐに使える『交換(権)』

 とある電気街の雑貨ビルの一つ。
 その3階には『モンスター・ガール・ズ』という魔物娘関連の商品を取り扱っている雑貨店がある。
 日用品からアクセサリー、書籍やゲーム、トレーディングカードまで扱っており、魔物娘たちもそれなりに利用している、らしい。

 店内は明るく、そこそこ広い。
 各コーナーで小分けに商品が置かれており、品揃えは悪いものの、ここでしか手に入らないモノや貴重な商品が取り揃えていることもあり、それなりにお客も来る。売上もそこそこだ。

 そんな店内に一人の男性客が書籍のコーナーにいた。
 大股で2歩程度のスペースに魔物娘関連、または魔物娘自身が書いた本などが置かれている。
 数はそれほど多くなくとも、どれも普通の書店には置いていない商品が多い。
 この男性客も、そんなマニアックな本を買いに来た一人である。

男性客
「サキュバスが教える奥手の男を仕留める方法。たぬたぬ経済学。トロール&ノームの家庭菜園。魔物娘図鑑。……あ、これだ」

 探していた本を手に取り、パラパラと中身を確認する。
 男は納得したのか、本の値段を確認した

男性客
「税込1060円か。……なんとか買えるな。ゲームソフトは買えなくなるけど、それは来月でもいいか」

 男が手に取ったのは過激系魔物娘グラビア雑誌『グラモン』
 その過激かつギリギリな写真からアダルトコーナーに置いてある書店、または過激過ぎて取り扱いに困りはて、さらには取り扱い自体やめてしまった書店も多々あるほど。
 最近では、定期購読のお客しか売らなくなった書店も多くなり、このように置いてある書店も珍しくなった。

 今月の目玉は150ページにも及ぶ袋とじだ。
 各魔物娘一人一人のグラビアを袋とじにし、一人一人の魅力とエロスを最大限に表現た写真を掲載してある。
 さらに、応募者全員サービスには読者の好きな、今月のグラビアに載っている魔物娘のサイン色紙、または魔物娘自信がプレゼントされることもあってネット通販ではどこも売り切れ。今は手に入らない状態だ。

 男はレジに向かい、会計を済ませることにした。

店員
「以上で1060円になります」

 商品をレジに通し、素早くレジ袋に入れる。
 慣れた手つきで入れ終わると、机の下から一枚の紙を男に渡してきた。

店員
「これ今すぐ使える交換券です」

 店員は黄色い紙に大きく『交換権』と印刷された券を差し出した。

男性客
「えっ、今すぐですか?」

店員
「はい、今すぐです」

 客は少し驚きながらも少しラッキーと思った。
 内容を確認するために詳細の書かれた裏を見る。

 交換券の内容 『サキュバス一人分』

男性客
「……」

店員
「期限以内ならいつでも使えますよ?」

 客は微妙な顔つきになり、一方店員の方は自信満々に、鼻息も荒く答えてきた。
 客は、『まぁ期限といっても一ヶ月〜3ヶ月程度だろう』と思い、右端に小さく書かれている利用期限を見る。

 『期限、サキュバスの夫が見つかるまで』

男性客
「…………」

店員
「どうします?今使った方がいいと思いますけど〜(チラッチラッ)」

 期待した眼差しで店員が男性客を見つめる。
 困った客はおずおずと店員に聞いた。

男性客
「……えっと、これ返すとかは」

店員
「えっ?タダなんですよ!?」

 身を乗り出してくる店員に驚きながらも、男性客は言い返す。

男性客
「そう言われても……」

店員
「持ってるといいことありますよ。夜のお供に最適!」

 確かに夜のパートナーとしては最適だろう。
 しかし、男は布団に入るとすぐに寝てしまう体質だった。

男性客
「夜は疲れてすぐに寝てしまうので……」

店員
「朝ごはんも作ってくれます!」

 確かに一途で尽くしてくれるサキュバスなら美味しい朝ごはんも作ってくれるだろう。
 しかし、男は朝食をいつも会社近くの喫茶店で済ませていた。

男性客
「朝は外で食べてるので……」

店員
「仕事から帰ったら『おかえりなさい』を言ってくれますよ?」

 確かに家に帰ったら出迎えはしてくれるだろう。
 誰かがいる家に帰るのは確かに安心するしいいと思う。
 しかし、男は一人の時間を大切にしていた。

男性客
「家では一人の時間を大切にしているんですよ……」

店員
「……」

男性客
「……」

 しばらくの沈黙。
 重い雰囲気が辺りを包み込む。

店員
「……恋人などは」

男性客
「恋人よりも趣味に生きてますので」

 男には恋人などいない。
 恋人に割く時間よりも趣味に没頭している時間の方がいいと思っていたからだ。

店員
「…………」

男性客
「…………」

 再びの沈黙。
 店員は諦めたように、今度は赤い紙に大きく『割引券』と印刷された
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