人の気持ちを知るのが苦手です。

 涙が出る時ってどんな時ですか?
 体が傷ついてた時?
 心が傷ついた時でしょうか?
 それとも、とても怖い時?
 ああ、親から怒られた時もありますね。
 それでもないなら……誰か大切な人が死んだ時……。

 私にはどれも当てはまりません。
 いや、悲しい気持ちはあるのですよ?
 それはもうたくさん、心の中で泣いているのです。
 ですが、体が泣けないのです。
 目から涙が流れないのです。
 いくら悲しくても、怖くても、傷ついても……私の顔は無表情で、悲しい顔もせず、痛い顔も一つ見せず。
 私はただただ心の中で泣いているのです。

 いくら言葉で伝えようとしても、私の顔に変化がなければ……伝わりませんよ。
 知らない人にも、知っている人にも、友人にも親友にも家族でも親でも……鏡の前に立っている、私にも……。

 人も魔物娘も顔を見て話す生き物です。
 言葉だけじゃ表現できないものをたくさん持っているのですよ。
 だから、私の顔は欠陥があるのです。

 笑えないほどに、何もないのです。

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 そんな私ですが、今、ピンチです。
 今まで出なかった涙が少しは出てしまうぐらい、緊張と恐怖で震えています。
 体ではなく心が震えているのです。
 涙と言っても米粒程度の大きさですが、私は怖くて泣いています。

 体の方は身震い一つ起こさず、顔には恐怖がありません。
 ですが、心の中は体をガクガクと震わせて、顔は恐怖で染まっているのです。

 どうしましょう?
 どうすれば助かります?
 気分はまるで本の中の主人公が無茶苦茶な試練を受けて万事休す、という気分です。

「あわ、あわわわわわ」

 棒読みにしか聞こえない私の声が聞こえます。
 私の意思とは関係なしに出ているのです。
 でも不思議には思いません。
 なぜなら、私の前に立っているおじいさんが私の肩をつかみ、般若のような顔になっているからです。
 そのような恐ろしい顔になって、私をじぃっと見てくるからです。

 誰か助けて!

「こん畑は大事な芋を育てていたんだべ!それがいきなり出てきた沼のせいで、底に沈んじまっただよ!どうしてくれんだ!これじゃ約束の日に間に合わんべさ!」

 おじいさんの口から飛んだつばが、私の顔にぴぴぴっと付きます。
 汚いですが、今は拭いている余裕がありません。
 心の余裕がありません。
 喉はどんどん乾いて、頭の少々くらくらしてきました。
 倒れたら楽になれるかもしれませんが、私の体は倒れませんでした。
 頑丈ですね。
 ついでに精神の方も頑丈だったら良かったのに。

 なぜこうなってしまったかというと、おじいさんの畑の上に『彷徨い沼』が現れてしまったそうです。
 畑が完全に沈んだあと、私が『彷徨い沼』から出てきたものだから、沼の主だと思われてしまったみたいですね。
 主なんてとんでもない!
 この沼のせいで私は溺れかけ、こんな知らないところまで飛ばされた、ただの無表情なキャンサーなのです!
 一般魔物娘なのです!
 戦闘要員ではないのですよ?
 ホントに踏んだりけたっりです。

「この責任、とってもらうべからな?」

「せ、責任?」

 低い声でおじいさんが言います。
 
 どうしましょう、このおじいさんとうまくしゃべる自信がありません。
 助けを求めようと辺を見渡します。
 私とおじいさんの周りには人間さんがたくさんいます。
 男女、子供老人、全員入れて50人程度ぐらいです。
 沼の前に立っている、私とおじいさんの行方を人間さん達は見守っています。
 私は助けを求めて目線を彷徨わせましたが、人間さん達は『このあとどうなるの?』とハラハラしながら見ているだけです。
 これは助けてもらえそうにないですね。

「どこ向いてんだべ。こっち見んろ」

 ぐいっ。

 私の目線は、強制的におじいさんの顔に移ります。
 私の肩を掴んでいた手が私の顔を掴んでおじいさんの方へ向かせたのです。
 顔を動かそうとしても全然動かせません。
 手にぐっと力を入れられ、私のほっぺたが潰されそうです。
 今の私の顔はたこさんのような、突き出した口になていると思います。
 恥ずかしいですが、今は怖いという気持ちの方が強いです。

「……あにょ……わちゃしもこのにゅまにおしたひがいしゃで」

「沼に落ちてこん村に連れてこられた被害者だからって関係ねぇ!」

 おや、先ほどの言葉が通じましたよ。
 驚きです。

「『今度』はきっちりやってもらうからの!」

「きょ、きょんど?」

 おじいさんの手にさらに強い力が加わり、顔を掴まれた私はズルズルと馬車のある方へ引きずられます。
 そしてそのまま
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