感情表現が苦手です。

 表情とはなんでしょう?
 言葉以外で相手に感情を伝える、コミュニケーションの一つだと聞いたことがあります。
 しかし、それは本当に必要でしょうか?
 感情なんて語尾に「ぷんぷん」とか「しくしく」とかつければいいじゃないですか。
 その程度のものじゃないですか。
 皆さんは表情に頼りすぎているのです。
 だから私の気持ちなどわからないのです。

「……はぁ」

 沼があります。
 私の目の前には澄んだ水と、大量の沈殿する泥がある沼です。
 底が浅い池のように見えるのですが、実は結構深いです。
 沼の水面は波紋一つ起こさない鏡のようになっていて、上空の青空を写します。
 ぐるりと沼を囲むように木々が立っており、日の当たる所は日の光りを反射して、キラリと輝いています。
 この沼は、それなりに明るい場所なのです。
 花や森の動物などがいれば、絵本などで見るような素敵な池や湖みたいになるのでしょうが、あいにくこの沼には動物は近づかず、水草の花などは咲いていません。
 生えているのは、とろけの野菜と水草ぐらいです。
 彩りがあまりない、地味な沼です。

「…………はぁ」

 この沼は昔から『彷徨い沼』と呼ばれ、それなりに有名な沼……らしいです。
 『彷徨い沼』は明緑魔界でもめずらしいらしく、魔王城の偉いバフォメット様が保護対象として扱われるほど貴重な沼みたいです。
 魔王軍魔術部のバフォメット様が言うには、

 『とろけの野菜が群衆するほどの魔力を持っていながら、闇精霊のウンディーネが住んでおらず、魔界の水のようにとろみもなく桃色がかっていない。
 それどころか、沼の水は魔力のないタダの真水でありり、普通の人間が飲んでも魔物化、インキュバス化しないのだ。
 だが反対に、泥には高濃度の魔力が含まれており、少し触れただけでも魔物化、インキュバス化する可能性を持っている。
 採取場所にもよるが、一般的な暗黒魔界の土よりも多くの魔力を豊富に含んでいるのもわかった。
 これほどの魔力を保有しているにもかかわらず、ダークマターの出現、沼周辺の暗黒魔界化などが起きないのは不可解である。
 他にも目を見張る箇所はいくつもあるが、このような沼があること自体が不思議でならない』

 らしいです。
 子供の時にお父さんに読んでもらったモン娘新聞にはそう書いてありました。
 なので、昔から親に『あの沼は危険だから決して近づいちゃいけません!』と言われています。
 子供だった私はすぐに沼を見に行きました。
 そしてガッカリしました。
 だって、見た目はいたって普通の…………地味な沼にしか見えませんでしたから。
 ただ……大人の魔物娘や人間さん達は出来るだけこの沼には近づかないようにしています。
 二人っきりになりたいカップルでさえこの場所には近づきません。
 つまりです、落ち込んで一人になりたい時などにはうってつけの場所といことなのです。

「………………はぁ」

 そんな『彷徨い沼』の水の鏡に、沼を覗き込む魔物娘が一人映っています。

 ピンク色の長い後ろ髪を青色の丸い玉の飾りがついたバンドでまとめ、髪を両側で縛ったもっさりとしたツインテイールにしています。
 前の髪はそのままで、顔横側に生えている長い髪は顔の両側から胸までさらりと垂れ下がっています。
 少しつり上がった目元にオレンジ色の目は愛らしくも気が強そうです。
 両耳には雫のような形をした赤い耳飾りがキラリと光ります。
 子供のような童顔で、口元は小さく、開いたり閉じたりして深呼吸しているようです。
 それらのパーツで作られた顔は、少々気が強そうな印象を受けますが、怒っているのか笑っているのか、それどころか何を考えているのかわからない無表情です。

 首には骨で出来た首輪のようなものが付いており、首飾りのような青い目のついたハサミのなアクセサリーがくっついています。
 胸はピンク色の布で隠されており、胸の中央あたりには突起が浮き出て見えますが、それは胸を覆っている茶色い貝です。
 それほど大きくない胸なので、真下の下半身がよく見えるようですね。
 腕はピンク色の布をジパングの着物のように着て、裾からは腕や手は出してません。
 腕の上腕部分と手に当たる部分には赤いリボンがついています。
 腕のリボンは布がズレ下がるの防ぐため、手についてたリボンは、どうやらリボンの真下にはスリットが入っていて、手や泡が簡単に出せるような仕組みになっているようです。
 上半身は胸と腕以外の布は着ておらす、可愛いおへそが覗いています。
 お腹はまるだしです。冬になったら大変寒そうな格好ですね。
 そんな魔物娘の上半身パッと見た感想は、大人びた雰囲気なのに、見た目は少女と変わりありません。
 大人にもなってない少女が少し背伸び
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