虚弱猛進型少年と挑まれリザードマン

 僕は一目惚れした。
 凛々しい顔立ち。細腕ながらも全く脆弱な印象を抱かせない腕。打ち倒した相手の前に仁王立ちする足。百獣、否、生物の王さえ連想させる逞しい尾。何より、強気を挫き弱きを偲ぶ気高い精神。彼女の、リザードマンの何もかもに僕の心はひれ伏し、燃え上がるほどの熱を感じた。
 彼女と一緒にいたい。
 彼女の側にいたい。
 時には無謀な戦いに身を投じるだろう彼女の助けになりたい。
 何より、彼女に相応しいと認めてもらいたい。
 思いは駆け上り、身を焦がし、身を取り巻く些末な事柄など気にも留めなくなった。
 悩むだけ悩んだ。決意はできた。心のどこにも躊躇う気持ちはない。
 ならば行こう。将来の妻となる御方の元へ。
 ただし。
 たった一つだけ。
 問題があるとすれば、そう。
 僕は。
 ――三分歩けば倒れる程の、虚弱体質だったということだ。




 


 「父さん! 僕、嫁さんをもらいに行ってくるよ!」
 「おおおそうかケイよ! 何故そんなに重装備なのかは知らんが気をつけてな!」
 「うん!」
 玄関のドアを勢い良く開け放って出ていく息子を、涙すら浮かべて見送る父。彼の道場の弟子達は、普段は厳格な胴着姿の鬼師範の嬉しそうな顔を見てもらい泣きをしていた。
 何度もしきりに頷く父。
 「ついにこの日が来たのか……父さんは嬉しいぞ。家のことなぞ考えず、幸せになってこい」
 そう残して踵を返す父。
 彼が一歩を踏んだ瞬間に、敷地と外とを隔てる門から金属音と鈍い打撃音が反響してきた。
 父はすぐさま身を翻すと、
 「ケイぃいいいい! 通学鞄で崩れ落ちる自分の体力を考えて荷造りなさぁああい!」





 数時間後。
 首から腕に包帯を巻き、体中にテーピングがなさてた満身創痍で、ケイは再び玄関に居た。
 「手間をかけた父さん! やっぱり500gはダメだね、250gの軽装備で行くことにするよ!」
 「おおおそうか息子よ! 気をつけてな!」
 「うん!」
 慌ただしく出かけていく息子を見守る父。
 息子が門を通過したのを確認すると、不安を振り払うように稽古に身を入れようとする。
 が、遠くから幾人かの悲鳴が聞こえてきたことで腕を振り上げて駆け出す。
 「ケイぃいいい! お前が肩に物を乗せちゃあいかあああんぅ!」




 所変わって砂漠。
 ケイと呼ばれた若者は、あちこちボロボロの体ではあったが、そこそこ太い木の枝を杖代わりにして、生まれたての子鹿が心配しそうなほど足が震えてはいたが立っていた。
 彼はへっぴり腰で、自分の後ろのいくつもの大穴を見やる。
 「噂に聞くサンドウォームが街のすぐ外に現れた時には死を覚悟したけど、逃げ遅れて吹っ飛ばされて、何かに掴まったと思ったらそれがサンドウォームの胴体で。振り落とされるはずだったけど、荷物固定用の吸着魔法符がこんな形で役に立つとはね」
 よろめいた体の前に杖を立て、支点にして前進する。もはや歩行というより紙相撲の力士のようだった。
 「まあ普通に歩いたらこんなもんじゃ済まないからね、ショートカットだよ」
 誰に話しかけてるか分からないが、虚ろな眼でぼそぼそとつぶやく。
 小刻みに振動する手を押さえながら懐から方位磁針を取り出す。指針より大きく揺れる眼球で方角を確認し、一安心する。
 「良かった、商人さんに教えてもらった通りに進めてる。あともうちょっとだ」
 闇の中で希望を見出したかの如く笑顔になり、よろよろと進む少年。
 補足すると、少年が住む街から、目的地への経由地点となる別の街までは馬車を使って5日ほどの距離である。加えて言うと、彼が今いる地点は、直線距離でちょうど半分の場所だった。
 限界まで軽量化した旅荷は衝撃で吹き飛び、所持しているのは実質方位磁針と、サンドウォームの移動に巻き込まれて落ちていた木の枝のみ。
 彼の(長続きする)歩行速度は通常時で5歳児の2分の1。
 それら全ての状況を理解した上で、少年は笑いながら進むのであった。




 

 住処に帰る途中。
 自慢の羽が痛みかねないほど乾燥した空気にうんざりしつつ、彼女は飛んでいた。
 急用で人手が足りなくなったからと、ハーピーのよしみで運搬作業をしてきた帰りだ。
 野菜が大量に詰まった木箱をいくつも運ばされて、肩も足も筋肉痛ですこぶる痛い。
 欠員のハーピーから「簡単な仕事」と聞いて渋々受けたというのに、そんなものではなかった。やけに高い報酬の時点で気づくべきだった。
 ストレスで血管がピリピリする。自分でもよく分かるくらいに表情が歪んでいる。
 と、そんな不機嫌なわアタシに魔王様あたりが同情してくれたのか。
 吸う度に水分を奪っていくような空気の中に、かすかな“臭い”を感じた。
 「!」
 驚いた後、先ほどとはちがう意味で
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