オレこと黒崎ゆうたがこの世界に来て、この街で暮らして既に半年が経とうとしていた今日この頃。
食事処ハンカチーフの仕事は休み。
昨日あった隣に住むデュラハンのセスタとの稽古内容を確認し終え、稽古用の木剣を整備し終え、さぁやることなくなったな、どうするかというところ。
一通の手紙が来た。
「ごくろうさま」
届けてくれたハーピーの少女の頭をなんとなく撫でて(赤くなっていた)中へ戻る。
手紙というかそれは封筒。
オレのいた現代世界ではめったに見ない蝋燭の封をされたものだ。
赤い蝋に、蝙蝠の紋章。
これはきっと領主様からのものだろう。
この街『マルクト』の女の領主、クレマンティーヌ・ベルベット・ベランジュール。
彼女は人間ではないヴァンパイアだという。
ヴァンパイアというとやはり太陽の光が苦手だとか、大蒜が嫌いとか、それでいてかなり傲慢で、なんてことが浮かぶが今はそうじゃない。
「キャンディさん、手紙届いたんですけど」
この世界に来て、オレを拾い、親の代わりとなってくれている女性の名を呼ぶ。
そうすると一分も経たずに二階からキャンディさんが降りてきた。
「どれかしら?」
「これです」
オレは彼女に封筒を差し出した。
というのもオレは恥ずかしながらまだこの世界の字を読むことができない。
もう既に半年経っているというのに読めるのはせいぜいこの店のメニューと自分の名前くらいだ。
ぺりっと蝋を剥がし、封筒の中から真っ赤な紙が取りだされる。
…赤い紙?赤紙?
え?それってまさか…あの、戦争の召集?
とすると…その召集に見合う男はレグルさんと…オレ?
「あ、これユウタ宛ね」
「やっぱり…戦争ですか?」
「はい?」
オレの発言にわけがわからないという顔をするキャンディさん。
様子がおかしい。
思っていた反応と全く違う。
キャンディさんはオレに手紙を見せてある部分を指差した。
「これは税を納めるお知らせみたいなものよ」
指の先にはオレの名前が黒のインクで大きく書かれていた。
領主がいれば領地がある。
そして領地は領主のもので、そこには領民がいる。
勝手に住まうわけではなく、領主の地に住むのだから当然税というものを納めなければいけない。
昔の日本でも米や貨幣を税として納めさせていたんだ、どこの世界だろうと同じものは同じなのだろう。
ただ、オレ宛に来た手紙に書かれていた税は貨幣でも米でもない。
生物として体に流すもの、血である。
領主がヴァンパイアである以上彼女も生きるのには血が必要なのだろう。
それを税にし、納めさせる。
ただし、これは独身男性だけ。
夫婦、または女性の場合はきちんと金貨や銀貨などで納めているらしい。
ということは、今回オレはただ血を抜かれてくればいいということだ。
親魔物街『マルクト』 北部
「…なんか献血みたいだな」
一人呟き門の前で止まった。
この街における北、そこにあるのが領主の家であり、オレが血を納めに来た場所である。
「…」
その家を見て言葉を失った。
端が見えないほど長く続く高い塀、細部までこだわり彫られた柱、黒く光る大きな鉄の門は錆一つ見当たらず新品同様に輝いている。
その門から見える建物はさらに大きい。
館って言うか、屋敷って言うか…豪邸だ。
赤い屋根に規則正しく並んだ窓が四列、いくつあるかなんて数え切れない。
かなりの大きさだがここから見ると距離がある。
おそらく庭もかなりの広さを持っているのだろう。
これじゃあアニメやドラマに出てきそうな豪邸だ。
今まででここまでの建物を直接目にしたことなんてなかった。
近くて師匠の家だろうか。
あの家も豪邸と呼べそうなほどだったがここはさらに上を行っている。
今からここに入らないといけないのか…。
知っている人の家なら師匠の家のように大きくても気兼ねなく入れるが見知らぬ人、それも領主ときているんだ、気後れぐらいしてしまう。
というか帰りたくなってくる。
ここで帰れば税を納めなかったとして領地から追い出されそうだけど。
「…仕方ないか」
うじうじしていても始まらない。
さっさと血を抜いて帰らせてもらおう。
とりあえず重そうな門を開けようと手を置こうとしたそのときだった。
「お待ちしておりました」
門が自然に開き、中から赤毛で紺色のメイド服に身を包んだ美女が現れた。
真っ白な肌に真っ赤な唇、そこから除く八重歯が印象的である。
服装からして…領主のメイドだろう。
「あ、どうも」
とりあえず頭を下げておく。
どんな世界だろうと相手が誰であろうと礼儀作法は欠かさずに。
「この屋敷のメイド長をしておりますハリエット・リードと申します」
オレが頭を上げるのを待ってからそう言った彼女、ハリエットさんは淑女らしいスカートの端をつまんで礼をする。
それに対してオレは紳士的に返す礼な
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