ユウタと逢瀬を重ねて既に二桁。
彼のおかげで彼に触れることができるようになった。
今まで男性に触れることのできなかった私にとって喜ばしいことだ。
…ただ、ユウタ以外の男にできるかはわからないが。
それに。
ユウタは血を分けてくれる。
こんなヴァンパイアである私を前にしても恐れず、動じず、女性として扱ってくれる。
傍から見たら馬鹿だとしか言いようがない。
ユウタ自身も自覚してるだろう。
それでも、今まで人間に虐げられてきた私にとってそれがどれほど嬉しいことか。
そして、温かいことか。
私はいつものようにこの世界に来て電信柱(ようやく名を教えてもらった、これが何のためにあるのかはまだ知らない)の上に立ち、蝙蝠を夜空に放っていた。
ユウタを探すために。
今夜もまたユウタに会いに来た。
以前のこともあり約束をし忘れていたからだ。
次に会う日を決められず、どこで会うかを伝えられず。
結果こうして探し出している。
血をもらうわけではない。
ただ単に話しに…いや、少しばかり触れ合うために。
手を繋ぐぐらいなら彼も許可してくれるだろう。
そのまま夜の散歩へといくのもまた乙なものだ。
本当はさらにその先へと行きたいのだが…行けるだろうか?
この前は口付けまでした。
以前の私なら絶対に考えられないだろう。
触れるだけでその感覚を引き離そうと突き飛ばしていた私からは予想もつかないものだ。
それは…とても甘いものだった。
今でも思い出せるあの感触。
気持ちが、心が、蕩けるようなあの行為。
ただ唇を重ねただけだというのにあそこまで昂ぶるとは。
もともと大蒜で少しばかり昂ぶっていたせいもあるだろうがそれでも。
それでもやはりいいものだった。
今まで感じたものよりもずっと、よかった。
親友に話してみたところ、なんでもっと先に進まないのか、そのまま押し倒せばよかったのだと口うるさく言われた。
万年旦那と体を重ねてる君とは違うのだよ。
こちらは君の影響を受けたところで元々ヴァンパイア。
貴族という名を背負っている。
その貴族が、親友と肩を並べたこの私がそのような真似できるわけない。
…まぁ、したかったかと聞かれれば…したかったのだが。
心のどこか、もっとユウタを求めていたことは事実だ。
好意だって彼に向けている。
今さら否定する気はないさ。
「…と」
どうやら蝙蝠たちがユウタの居場所を突き止めてくれたようだ。
それでは一刻も早く行くとしようか。
この時間は有限だ。
無限の時を生きてきたからこそその大切さは身にしみている。
ユウタは私と違う人間。
生きることができる時間が限られている。
…もし、私と同じヴァンパイア…いや、インキュバスにできたら…。
「…何を考えているんだ、私は」
そんなことをすれば確実に殺される。
ユウタの双子の姉である彼女が怒らないわけがない。
それに、いくら優しいユウタでもそれを望んでいるかわからない。
もしも私が無理やり彼を人ではないものへ変えてしまったときは怒らないでいてくれるだろうか。
それとも見たことのないような形相で憤るのだろうか。
それとも仕方ないといって受け入れてくれるのだろうか。
…わからない。
私自身それを望んでいるだろうが…それでも。
ユウタがどうしたいのかわからない以上すべきではない。
彼が初めて私に血をくれたときは手首を切っていた。
あれは私への気遣いと共に、私に噛まれることを避けたかったからじゃないのだろうか。
だとして、私がユウタに牙を立てるべきではない。
彼自身、人間でありたいと思っているのだろうから。
「…行こうか」
考えを振り払うように。
そんな思いを拭うように。
私は翼を開き、飛び立った。
そうして夜空に羽ばたく私はどんなところか知りもしなかった。
ユウタを探して見つけた場所を。
ユウタがそこにいた、その意味を。
「…ここ、か?」
蝙蝠に案内させてたどり着いた場所。
ここにも複数立てられている電信柱の上に立ち私はその建物を見た。
窓がいくつも並んだ大きな建物。
私の屋敷や親友の城には劣るかもしれないが…それに近いほど大きい。
何の建物だろうか。
下には赤い光を放つ変わった鉄の塊がある。
確か…車というものだったか。
白く塗られている反面、上で輝く赤色がとても目立つ。
なんのためにここに止まっているのだろう。
いや、それ以上に気になるのが…香るんだ。
この独特のにおい。
わずかだが…それでも大量に。
不気味なほどに、沢山。
私達が生きていく上で必要なあのニオイが。
鉄に良く似たあの香りが。
―血のニオイ…?
怪我人が大量にいるのだろう、距離を置いても窓越しでも染み出し、漂ってくる。
ふむ…といことはここは病院なのだろう。
しかし、それで疑問に思うことがある。
なぜここなのか。
どうして、ユウタがここ
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