夜風がオレ達の間を駆け抜ける…。
どちらも動かない。ただ、待っていた…。
絶好のタイミングを、
集中が極限に高まる瞬間を…
音もしないような小さな呼吸音がなぜだか異常なほどに聞き取れた。
そして…
その瞬間はやってきた。
「ふっ!!」
足に力をこめ、セスタに飛び掛る。
右の拳を限界まで引き寄せて、セスタの顔面めがけて放った。
ギャリンッ!
鉄と鉄のぶつかり合う音。
オレンジ色の火花が散る。
紙一重で剣にガードされた。
―だが、止まらない。
自重に対して重すぎるメリケンサックを、今度は左拳で放つ。
ギャリィッ!!
またもや金属がぶつかり合う。
火花が再び散る。
―それでも、止まらない。
オレは力をこめて、全霊の力を込めて拳を振るう!
右から左。上から下。左から上。下から右。
無論、彼女もただ黙って受け続けてくれるわけも無く反撃に移る。
「フッ!」
真横からの胴薙ぎ!
オレはしゃがみこみ、頭上を剣が切り抜けた。
死と隣り合わせになる感覚が、感じられる。
一瞬の気の迷いが死へとつながる戦いの中でひとつの考えが浮かんだ。
賭けに出るか、否か。
当たりはでかい分、外したときの反動もでかい。
当てられるほうの確立が極端に低い、そんな賭け…。
しかし彼女はそんなことを考える猶予をオレに与えてはくれなかった。
上から下への大きな兜割り!
すぐ横に飛び出し回避したが数本、オレの髪が落ちる。
迷っている暇は無いみたいだな…!
腹は括った。
彼女の剣撃にこのまままともに付き合えば先に倒れるのは―オレの方…。
だったらもう、これしかない。
オレはすぐさま飛び出しセスタとの距離を縮めた。
「せぃっ!!」
拳を振るう!
上下左右、四方八方から!
彼女はいともたやすく受けてくれるが…。
縦横無尽に振るわれる拳撃。
何度もセスタには届かない…が、徐々に変化は訪れる。
「…!」
その感覚に、セスタも感づいたようだった。
拳の振るわれる感覚が、徐々に短くなってくる。
振るわれた拳の力が徐々に強くなってきている。
「くぅ…!」
その変化は彼女にも見て取れた。
焦りが生じてきている。
コレはチャンスだ!
今のオレは別に特別なことをしているというわけでもない。
ただ単に拳を振るう。
自身の体を、少しだけ揺らして、振るう。
他から見ればたいしたことないその動きは、今オレが持っているメリケンサックによって効果が引き出されていた。
自分の自重と釣り合わないほど重いそれを振るえば、そこに自然と力が生じる。
遠心力。
振るえば振るうほど速度を増し、
殴れば殴るほど力を増していく力。
以前空手の師匠にコレでもかと殴られ続けられた技である。
「ぐぅ…!」
セスタの剣がブレはじめる。
手は一向に休めない。ここでもし休めたとしたらセスタからの剣撃がオレの命を容赦なく刈りにくるだろう。
休めるわけにはいかなかった。
死なないためにも、生き抜くためにも。
「っ」
何かが脳裏を掠めた。
何か、大切なことが。忘れていたであろうことが。
大切にしていた想いが…。
懐かしき双子の姉の顔が一瞬ちらつき、そして消えた。
―ああ、そうか。
何度目かわからない拳をふるって、オレはようやく気づく。
自分がこの技を習得したその意味を。決めたはずの覚悟を。
守れなかったその心を…。
自分から何度も剣を殴りにいく。
ギャリンッギャリンッギャリンッギャリンッギャリンッ!!
拳と剣のぶつかり合い。
決着のときは近づいてきていた…。
「ラぁ!!」
セスタの懐まで踏み込み、下から上へのアッパーカット!
それは正確に彼女の剣をはじいた!
「なっ!?」
一瞬。
彼女の懐にもぐりこみ、そっと両方の手の平を鎧に押し当てる。
二瞬。
セスタははじかれた剣を上からオレに向かって振り下ろす!
三瞬。
限界まで力を蓄えられた力を、放つ。
ゼロ距離からの打撃。
それは相手に外傷を与えることを目的としない攻撃。
相手の内部を狙った衝撃。
地に足をつくことで限界まで踏ん張りをきかせ、両腕に極限まで絞り込んだ力を溜め込み、
そして放つ。
空手の師匠から教えられたすでに現代では使わないであろう極意。
無論生身で喰らえばひとたまりもない技。
硬い防御さえ貫く一撃。 『鎧通し』
―音なき衝撃が辺りに伝わった―
「がぁ!?」
遅れてセスタの体が後ろに吹っ飛んだ。
「―っ!!」
反動で、オレも後ろに転がる。
月明かりで照らされた空き地に立っているものはいなくなった。
しばらくの間、冷たい夜風が吹きぬける。
勝った…。
オレは勝ちを確信した…いや、確信しなければいけなかった。
本来この技はオレのような未熟な者が使うような技ではない。
相手の攻撃を見切れ、なおかつ戦闘で全力のパフォーマンスを見せられるような者。
すなわちオレにと
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