逢瀬、やがて接触

「…こっちのドレスのほうがいいだろうか?」
私は鏡の前で二つのドレスを揺らした。
どちらを着ていこうか迷っているところだ。
どちらも血のように赤く、そして露出の多いものである。
鏡の前に立ったところで私の姿は映らないので着た姿を誰かに見てもらうしか判断しようがないのだが…。
だがこうして迷ったことなんてなかった。
そもそも男性のために自らドレスを選んだことさえなかった。
普段はあのドレスを着ていたし。
この前焦げてしまったせいで着れなくなってしまったが実はいくつも予備を持っている。
あれはお気に入りだからね。
それでも…少しくらいは。
おしゃれというものをしても、いいかもしれない。
今まで見せる相手なんていなかったからあのドレスだったが…。
たまには…いいかもしれない。
「ハリエット」
「はい」
メイド長である彼女の名を呼ぶとすぐに返事が来た。
さすがメイドを束ねる者、私の声一つでどこでも現れる。
優秀で嬉しいものだよ。
「どちらのドレスがいいだろうか?」
そう言って彼女の前で二つのドレスを揺らした。
片方はいつも着ているドレスに良く似たものだ。
前面を大きく肌蹴て細かなところに装飾が加わっている。
少しばかりデザインが変わっていて気づくものなら気づいてくれるだろう。
もう片方は形からして違う。
前面を肌蹴てないがドレスの裾が短い。
そしてコルセットつきのものだ。
正直これはあまり好きではないのだけどね。
コルセットがこう…苦しいというか、きついのだ。
主に胸が。
コルセットとは胴回りを見せるものではなかったのだろうか?
これ以外にも沢山ドレスがあるのだが…なんというか、その大半が好みじゃない。
それに中にはあの親友から贈られてきたものまである。
無論、それはただのドレスではない。
魅了の魔法をかけたドレスや大事な部分だけをスケスケにさせたドレスなどというものだ。
まったく、嫌味だろうか。
自分は先に旦那を見つけたからといってそんなあてつけみたいに贈ってこられても困るというのに。
あろうことか既に何人も娘も産んでしまっているし。
まったく困ったものだよ。
「そうですね…私はこちらのほうがよろしいかと」
そう言って彼女は私が普着るドレスに似たそれを指した。
ふむ、これか…。
「こちらのほうがクレマンティーヌ様の魅力を存分に発揮できそうですし。殿方を悩殺するのに役立つかと」
「…男性に見せること前提なのか」
「そのために選んでいるのでしょう?」
「そうだが…」
正面から言われると気恥ずかしいものがある。
慌てて否定までするような真似は流石にしないが。
「クレマンティーヌ様のお胸を強調できますしね」
「…そうかい?」
「ええ、大きいのですからもっと効率的に使わないといけませんよ」
「…」
私自身そう思っていないのだがね。
大きいほう…なのだろうか。
「流石にホルスタウロスまではいかないだろう?」
「あれと比べるものではありませんよ。それでもクレマンティーヌ様のは十分に大きいのです」
「…そうかい」
とりあえず彼女に選んでもらったとおりにドレスに着替え、小さいバッグを手に取る。
中にあるのは治療薬だ。
私自身魔法が使えないわけじゃないが…回復魔法とは相性が悪くて上手く使えない。
攻撃魔法などなら得意なのだがね。
それでもほとんど使わない。
基本的に私はレイピアを使って戦っていたからね。
というのもこの前のでは使う暇さえなかったのだが。
「それでは行ってくるよ」
「行ってらっしゃいませ、クレマンティーヌ様」
彼女の言葉を背に受け、歩き出す。
さて、今日はどうするか。
あれほどのことがあったのだ、流石に家まで行くのは危険だろう。
お姉さんのことだ、見つけたとたんに包丁を振り回してきてもおかしくない。
彼女がどれほどの実力者かはわからないが…それでも並みの戦士よりもずっと上であることに違いないだろう。
それに、彼の師もそうだ。
彼女にいたっては危険だ。
空を飛んでいる私を蹴り落とす、一撃一撃がドラゴンのような威力を秘めている。
それでいて変則的で、早い。
あの場では本気を出すわけにもいかなかったが…それでも。
彼女は本気で戦っていても苦戦は確実だろう。
あれを再び相手にするのは骨が折れる。
なら、その二人に会わないところで。
その二人に見つからないところで。

―ユウタと会うことにしよう。





これで三度目。
私は石でできた柱(いい加減なんと言うものか知りたいものだよ)の上に立ち、町を眺めていた。
既に日が沈み、あたりも暗くなる。
ここは今秋だっただろうか。
日の入りが早くて助かるよ。
「行くんだ」
そんな宵闇を迎えるところで私は下僕である蝙蝠を放った。
というのも、目的はユウタを探すため。
確か彼は学校に通っていたからね。
それなら
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