オレとお弁当

日々勉学に励む高校生にとって毎日の授業のわずかな時間、過酷な戦いを耐え切った後に待っている至福のとき。
一つの授業につき45分、その間にあるその時間は10分間。
一日全部で七時間、それを一週間。
しかし朝から四つの授業を受けたところに待っている40分間の長い休み。
すなわち昼休みである。
本を読みに図書室へ行く、友人と馬鹿話しにいく、購買でめぼしいおやつを買う、勉強に励むなどさまざまなことができる時間である。
そんな時間のさなかオレは席に座ってため息をついていた。
「…はぁ」
困ったことになった。
昼休みになって気づくとは思わなかった。
いまだ成長期である高校生にとってこれ以上の痛手はない。
そう思うほどのことをしてしまった。
何をしたかというと…まぁ…。

「弁当、忘れた…」

朝なんで気づかなかったかな…。
やっぱり忙しかったからか…。
そりゃそうだ。
明日から休日、よって今日は両親が出かけている日であり、姉ちゃんも先に大学へといってしまった。
家にいるのはオレらのみ。
そんな中で食事、弁当の用意をするのは当然オレである。
本当なら学食を利用したり購買でパンを買うなりするのもいいだろう。
しかし、今日は両親がいない。
夕食のためにいくらかお金を託されている。
それを無駄に使うわけにもいかない。
一人分、二人分の食費ならパンを買う金くらい余るだろうが…必要なのは姉ちゃん含めて四人分だからな…。
それに今日は確か卵の特売日だったから…あとトイレットペーパーも頼まれてたし。
だから無駄遣いなんてできない。
高校生の家庭事情とは中々厳しいものである。
「…仕方ない」
うだうだしていたところで腹は空く。
それなら腹に溜まるものでも探しに行こう。
今なら確か友人がスナック菓子でもつまんでるところだろうし。
もしもらえなかったら水で腹を膨らませるのもありだ。
それでも、あやかには確かに弁当を渡したからあっちは平気だろう。
黒崎あやか。
オレの双子の姉である。
ある夏祭りの夜を境に人間ではなくなってしまったオレの家族。
人間でなくなろうと双子であることに変わりなく、今は人外である部分を何とか隠して学校に通っている。
あいつに頼って弁当を分けてもらおうか…?
いや、それはなしだ。
あの麗しき暴君がオレのためにそんなことをしてくれるわけがない。
あやかはオレのことが好きだという。
その気持ちはあの夜に確かめ合った。
互いに体を重ね、インセストタブーを犯してまで伝え合ったこと。
それでその後も毎晩三人で体を重ねているのだが…。
毎晩どころか朝もしているのだが…。
それでも対応が変わらないんだよなこれが。
ベタベタするのは周りの目がないときだけ。
周りの目がなければベタベタするのかと聞かれればそうでもない。
やっぱり対応が普段どおり。
している最中は可愛らしく求めてきたりするんだけど。
何があっても我を通す。
どうされようとかわらない。
人でなくなろうと自分であり続ける。
それがオレの双子の姉なんだ。
だから、ここでお弁当をもらいに行ったところで待ってるのは…。

「はぁ?何で?それは自分で忘れたあんたが悪いんでしょうが」

…これだろうな。
わかるよ、双子なんだから。
そういうところは優しくないんだよ、うちの暴君は。
まったく。
そんなことを思いつつもオレは教室を出て、廊下を歩き出して…止まった。
目の前の光景。
オレの眼前に広がったそれ。
広がったというか、現れた女性によって。
廊下を歩いてきた彼女。
この学校の制服姿ではない、私服姿。
白いカーディガン、短めのスカート。
単調で特にファッションを重視したというわけじゃないだろう。
たぶん目に付くものかそれとも彼女も着れるサイズの服を見繕ったのだろう服装だ。
もう既に秋、そろそろそんな格好じゃ足元寒いんじゃないかとも思えるだろうが普通の人ならそうは思えないだろう。
それは彼女があまりにも綺麗過ぎるから。
あまりにも彼女が異質すぎるから。
周りと違うその髪の色も。
他と違うその瞳も。
生きてるうちに目にする機会があるかないかというその美貌にも。
皆、見とれているに違いない。
廊下にいた男子、および女子は皆彼女に熱い視線を注いでいる。
綺麗に整ったその顔。
服の内側から窮屈そうに押し上げる胸の膨らみ。
それに反して細く無駄な肉のないくびれ。
なだらかなカーブを描く腰。
傷一つない眩しい太腿とふくらはぎ。
髪の毛の先から足先まで全てが完成された芸術といっても過言じゃないだろう。
ただ…皆には見えてないだろうものがオレには見えている。
別にオレに霊感があるとかそうじゃなくて…まぁオレ自身よくわからないのだが見えるんだ。
最初に会ったときから。
初めて出会ったあのときから。
その『魅了』に惑わず、その『
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