そこはとても広い空き地だった。
手入れもさていないだろう、伸びきった草。
硬そうな道とは違う、土の地面。
そして数本の木。
周りを塀に囲まれ、その一箇所だけが砕かれている。
おそらく…これは…。
ユウタに初めて出会ったところの近くだろう。
あの夜、ユウタを襲って撃退されてたときに砕かれたものだろう。
他の誰でもない、目の前の女性が砕いた跡だろう。
貼り付けたような笑みを浮かべる、破滅的なほどに美しい彼女が。
目の前の彼女。
飛んでいる私に攻撃をしてここへと誘導してきた。
空を飛ぶヴァンパイアに対して空に飛び出し、私を打ち落としてきた。
なんとも驚きだ。
石でできたような柱を垂直に駆け上がったと思えばきつい一撃をもらってしまった。
飛ぶものに対してそのような並外れた行動をする彼女。
彼女はやはり人間ではないのだろう。
「ユウタが稽古に来たときに気になってたんだよね」
特徴的な灰色の長髪を揺らして、冷たく笑う。
「ユウタの手首、包帯が巻いてあるんだもん。もう気になっちゃうよ」
そう言って笑う。
しかし、文字通り笑っているわけじゃない。
まるで社交辞令のように、礼儀として笑みを浮かべている。
機械的、味気なく。
仮面のように笑みだけを浮かべている。
「まさか君のために手首を切ってたなんてね…ユウタったら誰にでも優しいんだから困っちゃうなぁ。ねぇ、お姉さん」
そう言って隣に立っている少女に話しかけた。
ユウタの双子のお姉さん。
初対面でも私を嫌い、そして今なお私を射殺しそうな視線を向けている。
親の敵のように。
長年憎んでいる敵のように。
そうして、静かに口を開いた。
「…一回、あたしは言ったよね」
彼女の言うその言葉。
その意味は既に嫌というほどわかっている。
あの夜、ヴァンパイアである私を恐れることなく脅しに掛かった彼女の言葉。
二度と来るな。
ユウタに関わるな。
ユウタを傷つけるな。
短くも低い声で私に伝えたその言葉。
それを私ははっきりと覚えている。
「一回言って聞けない奴って二回言っても聞けるわけないんだよ」
そう言って睨んでくる。
可愛らしいその顔を歪めて。
憎憎しく私を見据えて。
「吸血鬼って殺しても犯罪になるわけじゃないだろうし…平気だよね?」
そう言った。
思わず背筋がぞくりとする。
目の前にいるのは正体不明の女性とどう見ても人間の女性。
それも片方にいたっては成人もしていない、少女とでも言うべきところ。
それも。
その少女がその言葉を発した瞬間、感じた。
押し潰されるような威圧を。
塗りつぶされるような恐怖を。
まるで全身の肌に刃を突き立てられているかのような殺気を。
これが…少女?
まだ私の十分の一も生きていないような、殺しのこの字も知らないような少女が…どうして。
どうしてここまで殺気を放てるだろうか。
ここまで殺そうという気になれるのか。
どうしてここまで真っ直ぐ私を見据えられるのか。
その瞳で。
憎悪を宿しながらも冷静に。
憤怒にまみれても冷淡に。
私を捉えて離さない。
「あんたみたいなのはさ、もう以前から経験しているんだよ」
一歩、お姉さんは踏み出した。
「その中でも酷かったのが…化け狐と化け蜘蛛と…それからあの龍」
さらに、一歩。
「あんたはあの龍と同じだ。それからこれとも」
そう言って指し示したのは後ろで笑みを浮かべているユウタの師。
その発言の意味はよくわからない。
よくわからないが…。
それでも、共通しているのはきっと。
―ユウタに関わりすぎたことだろう。
関わりすぎて、ユウタに何かをしてしまった。
ユウタの優しさに甘えてしまった、そんなところだろう。
狐に蜘蛛に、龍。
思い当たる節があるがどれも好んで人を傷つけるわけがない。
だからお姉さんは私に対してこれほどまで怒っている。
「あんたはゆうたに甘えすぎなんだよ。甘えて、ゆうたが傷ついてることに目を逸らしてる」
「…」
「そんなのが隣にいたら…ゆうたがダメになる。これ以上いたらゆうたもまた、これ以上傷つくことになる」
さらに、一歩。
「ゆうたを傷つけて、でもゆうたはそれを我慢して。それで結局どうなるの?」
また、一歩。
「あんたはゆうたを傷つけるだけじゃないのさ。ゆうたをただの食料としてみてるだけじゃないの。」
「…違う」
一歩。
「ゆうたは人間あんたは吸血鬼。所詮どうしたところで捕食者と捕食物の関係でしょうが」
「違う…私は決して、ゆうたをそんな風に思っていない」
「それでも体は違うでしょ?」
一歩。
「生きるためだと言ってゆうたから血を啜ってる。前回のも懲りずにまた来てる。図々しいったらありゃしないよ」
一歩。
そして足を止めた。
私の目の前で。
あと少しで手が届く範囲まで歩いてきて。
お姉さんはその瞳を私に向ける。
「ゆうた
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