オレと二人と重なる想い

心のどこかで予期していた。
胸の奥で期待していた。
頭の中で危惧していた。

―こうなるんじゃないかって…。

花火を見るためと言ってフィオナがどこからか出したベッド。
おそらく魔法という奴だろう。
召喚したそれに寝転がって…というよりも両隣に引きずり倒されて。
花火の打ちあがる音も弾ける音も煌く火の明かりもない夜空を見上げて。
そう思っていた。
薄々感づいていた。
フィオナと別れた時にあやかと共に露店で買ったプレゼント。
フィオナの着ていた服にはハートマークが多かったからやっぱりハートが好き?なんて思いながら買ったペンダント。
それをこの廃墟の中で渡したときに浮かべていた表情。
熱っぽく、潤んだ瞳を見て。
もしかしたら…そうじゃないかと思っていた。
昨日のキスがきっかけになったり、浴衣を着せていたときのが問題だったとか、そう思ってもいた。
そしてその思ったことはどうやら当たっていたらしい。
でもそうならないと思っていた。
だってなるはずがないんだ。
あやかが隣にいるんだから。
今までだってことごとく女の子と仲良くしようとしたときに邪魔してきたように。
また邪魔してくれると思ってた。
当然妨害してくれると思ってた。
なのに。
そのあやかまでがオレを引きずり倒した。
予想外、ある意味裏切りに近いものを感じる。
感じたところでわからないんだけど。
あやかの気持ちを理解できない。
オレは男。
あやかは女。
どう思っているかはわかったところでどう考えているかまでわからない。
男と女じゃ違うから。
完全に理解なんてできやしない。
だからあやかがどう考えてフィオナと共にオレを引きずり倒したのかも、わからない。
もしかしたら祭りで仲良くしていたのは…これを二人で考えていたからなのだろうか?
「…。」
「…。」
「…。」
オレもあやかもフィオナも何も言わない。
聞こえるのは祭りが終わり帰宅する人々の声が下から響くぐらい。
あとは抱きついてきた二人の息遣いと、鼓動ぐらい。
こうやって黙っていたとこで埒が明かない。
何も進まず、当然好転もしない。
これから先どうなるのか、二人が何をするのかもわからない。
それならオレから口を開くとしようか。
どうしてこうしたのか聞きたいし。
そう思って口を開いたそのときだった。
「ねぇ、ゆうた。」
「ユウタ…。」
二人がオレを呼んだ。
ただし、オレの上で。
手をベッドに突き、左右から覆いかぶさるように。
二人してオレの顔を見て言った。
「…何?」
かろうじて返せたのはその一言。
しかし気づいた。
まずい。これはかなりまずい。
フィオナの顔。
先ほど見せたように潤んだ瞳でオレを見ている。
頬を赤く染めているのは恥じらいか、それとも照れているのか。
それとも、興奮しているのか…。
対してあやか。
フィオナ同様に頬を赤らめている。
伏し目がちにオレを見つめるその表情。
十八年間隣にいて向けられたことのない表情だった。
自分の持つ魅力を十分に見せ付けた顔。
姉としてじゃない、家族としてじゃない、女としての顔。
そんな表情を向けられて不覚にも一瞬どきりとさせられる。
それと同時に感じた。
これはまずいと。
これは…危険だ。
命が危険だとかじゃない。
それでも、危険。
せめて距離をとろうと体を後ろへ移動させようとしたが、上手くいかない。
肩を掴まれてしまった。
片方はあやか。
もう片方はフィオナ。
二人が二人オレの肩を掴んで離さない。
掴むというよりも押さえつけて、逃がさない。
腕だけではなく足もまたそう。
気づけば俺の両足に両側から足が絡みついている。
片方にいたっては尻尾までときた。
両肩を抑えられて、両足を絡められて。
こんな状態じゃ満足に動けない。
全力で逃げられない。
まるでまな板上の鯉というところだ。
方や妖艶な美貌を持った美女のフィオナ。
方や可愛らしき美貌を持った美少女のあやか。
そんな二人に倒され、覆いかぶさられているこの状況。
男としてなら嬉しいものだけど、こんな状況でいったい何をされるのかわかったものじゃない。
…いや。
どことなく予想はできている。
そんなおいしいことがあるかと疑ってもいるけど。
「ねぇ、ユウタ。」
オレの名を呼んだのはフィオナのほう。
真っ直ぐとその赤い瞳をオレに向けて口を動かす。
綺麗な桜色で柔らかそうな唇が動く。
「…何?」
「言っておきたいことがあるの…。」
「…何を?」
「私の、気持ち…。」
ああ、これは。
本当に、まずい。
先ほどフィオナがオレに体を預けて呟いた言葉。
あれがどういう意味が込められているのかわからないほどオレも鈍くはない。
自惚れるようだけどたぶん間違いじゃない。
でも信じない。
まだ疑う余地があるから。
フィオナの言葉はただの気まぐれ、一時の気の迷い。

[3]次へ
ページ移動[1 2 3 4 5 6]
[7]TOP [9]目次
[0]投票 [*]感想[#]メール登録
まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.33