初めてその女性を目にして息が止まった。
吐き出そうとした息を思わず呑み込み、見入ってしまった。
美しい。
それはあまりにも美しい。
一つにまとめた灰色の長髪は周りの明かりで輝いている。
笑みを浮かべたその顔はあまりにも整いすぎている。
綺麗。
あまりにも、綺麗。
アヤカとはまた違った美しさ。
アヤカのを女の子らしい可愛らしさというのならば。
この女性は大人の女性としての美しさ。
大人として、女性としての魅力を惜しげもなく晒してる。
美人。
完璧。
そんな言葉じゃ物足りない。
そう思えるほどの女性だった。
次に感じたのは違和感だった。
それほどの美貌を兼ね備えておきながら。
それほどの美しさを持っていながら。
誰も彼女に目をくれない。
私の隣で歩く彼女は誰の視線も受けていない。
まるで風景の一端を見るかのように皆一目見ては興味ないというように視線を外す。
いや、それだけじゃない。
ユウタとアヤカと別れてから。
彼女の隣を歩き出してから。
―私は誰からも見られていない。
彼女と同じように、風景の一端に化してしまったかのように。
誰もが私に見惚れない。
私の魅了が消えたかのように回りは普通に歩いている。
一度見ても興味がないように視線を他へと移していく。
何で…?
不思議で、不可解な現象。
リリムとして生まれてきてこんなこと今まで経験したことはなかった。
何が…起きてるの?
そう考えたとき。
急に彼女は立ち止まった。
自然、私も止まらざるおえなくなる。
彼女は―ユウタのお師匠さんはこちらを向かない。
…どうしたのだろう?
「えっと…ユウタの、お師匠さん…?」
「ここら辺までくればいいかな?」
「え?何が…なのかしら?」
「いや、ここまでくればユウタにも聞かれないからさ。それじゃあお話しようか―
―リリムのお嬢さん。」
ユウタのお師匠さんは、そういった。
振り返って、私を見て。
ユウタに向けていたときの表情とはまったく違う笑みで。
確かにそういった。
幻影を纏っている私を。
どう見ても普通の人間にしか見えない私を。
―リリムと呼んだ。
「へぇ〜、ユウタとは昨日に会ったんだ。」
「え、ええ。」
あの後私はお師匠さんと共に歩いていた。
ただすることもなく。
話しているだけだ。
人ごみの中の隙間を縫うように移動して。
「…あの。」
「うん?何?」
そう言って首をかしげる仕草は大人の雰囲気を纏った彼女には似合わないだろう。
だけど、それでも異様なくらいに綺麗に映る。
誰もが見惚れてもいいくらいに。
それでも、誰も彼女に見惚れない。
せいぜい私だけだ。
「あの、どうして…。」
「どうして、わかったのか…でしょ?」
「…。」
幻影を纏った私をどうしてリリムとわかったのだろうか。
いや、それ以上にだ。
―私をリリムとわかったのはどうしてなのだろう。
この世界に私のお母様はいない。
そして魔物もまたいない…はず。
アヤカが言っていたユウタに引き寄せられてきた彼女達を除いたとしてもあまりにも少なすぎる数だ。
今こうやって歩いているだけでも周りには人間しかいない。
そんな世界で。
こんな人間しかいないところで。
どうしてリリムと見抜けたのだろう?
「女が女を騙せると思った?」
「…。」
「なんちゃって、ね。」
彼女は足を止めない。
そのまま私に話しかける。
「そうだね。それじゃあ―
―君と同じようなものだから…って言えなわかる?」
「っ!」
同じような…?
それってつまり。
「貴方も…魔物?」
「そうだよ。人間じゃない、ね。」
彼女もまた魔物。
しかしそうは思えない。
彼女から何も感じない。
魔物らしい魔力も。
人間ではないという雰囲気も。
何も、感じ取れない。
彼女は…いったい…?
「残念だけど自分が何かまでは教えられないよ。まだユウタにも言ってないからね。」
彼女はそう言ってふふっと小さく笑った。
ユウタ。
不思議とその名を呼んだときだけ彼女の顔が綻ぶ。
さっきと同じように。
ユウタに抱きついていたときと同じように、嬉しそうに。
まるで、ユウタといるのが嬉しいと言わんばかりに。
「言えることといえば自分はユウタの師匠。ただそれだけだよ。」
「ただ…それだけ?」
「そう。師弟関係ってところ。残念ながらそれ以上の関係にはなれてないんだよね。」
お師匠さんはそう言ってため息をついた。
残念そうに。
心底、疲れたように。
…本当に何なのだろう、この女性は。
こんな女性が…魔物。
いったい…何の?
「もうね〜、硬いんだよ、ユウタったら。自分がさ、あんな抱きついてまで誘惑してるって言うのにさ。」
「…。」
えっと…お師匠さん?
急に…愚痴り始めたんだけど?
「お風呂で背中を流しっことかしたのにさ。何であと一歩踏み出してくれないのかな
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