差し込む日差し。
頬を撫でていく生暖かな風。
時折聞こえる小鳥達の囀り。
そんな中で私は目を覚ました。
「んん、ん〜?」
上半身を起こして光が差し込んでくるほうを見た。
私の視線の先に見えるのは家。
この家と外装が似ている、この世界特有の家だ。
私のいたところとはだいぶ違う作りの家。
そして電信柱というものから伸びる黒い綱。
電線、だっけ。
なんとも奇妙で不思議な光景。
でもその電線の上に小鳥達が乗っていた。
さらにはその先に、突き抜けるような青空が広がっていた。
そのうえ窓から差し込んでくる日差しは温かく、とても明るい。
暑いとは感じるけどそれでも爽やかに感じる朝だ。
魔界にいたときにはそのどれも感じたことがなかったもの。
こんな世界も悪いものじゃないわね。
そう、感じた。
ただ少しばかり頭がぐらぐらする。
お酒でも飲んだかのように、いや。
それ以上に酷い。
どうしたんだっけ…。
頭でもぶつけたのかしら?
いまだにぐらぐらする頭を我慢して、そのままベッドを降りて着替えて―そう思って気がついた。
あれ?この部屋…どこなの?
一人で寝るには広い部屋。
魔王城の私の部屋と比べると小さいけど、それでもそれなりの広さのある部屋。
そばには昨日見たものよりも一回り小さいてれびが置いてある。
家具の数が少なく、鏡台があり、その上には化粧道具のようなものがある。
ここは…誰の部屋なのだろう?
男の子の部屋なんて見たことないから予想はできないけど…ユウタの部屋というわけじゃないだろう。
ユウタが化粧道具を必要とするわけないし。
アヤカの部屋…というわけでもないだろう。きっと。
それじゃあ…誰の部屋?
そう思って他に目に付くものを探したら…。
…あ。
これは…。
それは昨日目にしたもの。
ユウタが着ていた、薄い寝巻きらしき服。
前面を大きく肌蹴て着ていた服と同じ柄だ。
ユウタの…寝巻き、だよね?
しかしそれが何で私の尻尾に巻かれているのだろう。
私の尻尾が何でユウタの寝巻きに巻いているのだろう。
それも、ユウタのズボン。
何で…だろう。
そのところを見たところで人が寝ていたような跡は見られない。
シーツは整えられ、綺麗になっている。
だけど、湿っていた。
…汗、なのかな?
これだけ暑い日なら寝ている間に汗をかくのもわかる。
昨日は夕方だというのに暑かったし。
そして私の尻尾にあるのはユウタの寝巻き。
…ユウタはここに寝ていたのだろうか?
とりあえずそれを手に取ってみた。
ユウタの、寝巻き。
それも、ズボン。
こちらもまた少しばかり湿っているけど…やはり汗だろう。
「…。」
…ユウタ。
夜、夢で見たものを、思い出す。
私はユウタとキスをしていた。
夢の中といえリアルな感触だった。
柔らかい唇の感触。
男らしい胸板の手触り。
ユウタの、石鹸ではない匂い。
温かな体温。
荒くなった息遣い。
身を捩って逃げようとする素振り。
ユウタの精一杯の抵抗。
全てがあまりにもリアルだった。
夢というよりもあれは…現実に思えた。
唇に指を這わせてみせる。
自分自身の唇の感触。
これに重なった、ユウタの唇。
ハッキリと覚えているあの柔らかさ。
本当にあれは夢だったのだろうか?
そう感じてしまう。
「ユウタ…。」
自分自身顔が赤くなっているのをわかってる。
どうしてだろう。
こんな風に感じるのは。
なんでなんだろう。
こんなに胸が高鳴るのは。
そして体の奥が熱くなるのは。
この世界が夏だから、それだから暑いというわけじゃない。
体の奥から燃えるような。
肉体が火照ってくるような。
女として、求めるような。
ユウタを求めてるような…。
「…。」
手に持ったユウタの寝巻きのズボン。
少し濡れているが…汗の匂いが漂ってくる。
別の言い方をすれば…ユウタのにおい。
ユウタの…。
それもズボンだから当然下半身にはいていたもの。
それなら……。
「…っ!」
いけない。
何を考えてるんだろう、私は。
ユウタが履いていたズボンだから、何?
ユウタの匂いがするから…何?
…それ、だから……だから…。
だから…少しだけ。
昨日のことを確かめるだけ…だから。
夢の中で感じたことを確かめるだけだから。
少しだけ…なら…。
私はそのズボンを手にとって顔に近づける。
とたんに強くなるユウタのにおい。
少しばかりきつい。
それでも、そのにおいを嗅ぐと体の奥が熱くなる。
リリムとして、女として、疼きそうになる。
不思議。
まるで…媚薬みたい。
私はリリム。
サキュバスとして高位の存在。
それなのだから男を酔わすことは容易い。
男を惑わすことも簡単。
でも、これはどういったことだろう。
これじゃあ逆だ。
私が惑わされてる。
淫魔にとって男の人の精は生きていくに欠かせないものだとしても。
食料となるもの
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