「…いくら人間じゃないからってそんな技使うのはどうかと思うんだけど…?」
「そう?これくらいやったぐらいがちょうどいいでしょ?」
そういったあたしはゆうたの上に寝転がってるフィオナを見た。
瞼を閉じて、眠ったようにしている。
というか、眠らせた。
というか気絶させた。
別に難しいことじゃない。
ただ単に頭を張っただけだ。
平手で、軽く。
そして頭の中まで響くように。
確か…ゆうたの言うところの『掌底』に似た技。
頭の中へ衝撃を送って意識をたつというもの。
あたしも武術をやっているのだからそれくらいはできて当然だ。
そんな技の一つくらい学んでる。
ただ少しばかり乱暴な技。
もしかしたら傷ついちゃったかもしれないし、起きたときに頭がぐらぐらするかもしれないけど…まぁ彼女は人間じゃないんだから平気だろう。
もしこれで眠ってくれなかったらフライパンで殴ろうかと思ったのだけど…どうやらその必要はなかったようだ。
あたし自身フライパンなんかで殴るのは気が引ける。
だってあれ、油っぽいし。
それに重いし。
とにかく面倒なことにならずに気絶させられて良かった。
っていうか、フィオナは何聞いていたのだろう。
あたしがリビングでするなって言ったのを聞いていなかったのだろうか?
リビング以外でしていたのなら止めようとは別に思わなかったというのに。
いや、そうじゃないや。
ゆうたが嫌がってるんだから、止めなきゃいけないだろう。
まるでお酒に酔ったみたいだったフィオナ。
あんな状態でしたとしてもゆうたは喜ばないだろう。
それに彼女もまた後悔したんじゃないか?
…いや、後悔はしないかもしれない。
結局のところ彼女もまたゆうたに惹かれてきたんだから。
ゆうたに好意のようなものを抱いていたのだから。
―まるであれらのように…。
「…っていうか気絶させる必要あったのかよ?」
ゆうたは呆れたような顔をして言った。
先ほどのキスのせいだろう、顔はまだ赤みを帯びていて吐く息も荒い。
ぜぇはぁとまるでマラソンをした後みたい。
「仕方ないでしょ。水を飲ませるにもそんな酔っ払った状態じゃ飲んでくれそうになかったし。」
「だからって頭やってまで気絶って…。」
「それじゃあ、あのまましたかった?」
「…。」
ゆうたが何も言わなくなった。
それがどうしてかわかる。
あたしの言ったことが半分図星だからだ。
ゆうたはしたいとは思っていない。
それでも、どこかその先を望んでいるように感じていた。
理性は拒んでいるというのに本能は望んで受け入れていた。
それが嫌だったのだろう、ゆうたは。
それがどうして嫌なのかもわかってる。
だってあたしとゆうたは双子。
今まで十八年間共に過ごしてきた仲だから。
お母さん、お父さん、お姉ちゃん達よりもずっと近い存在だから。
それこそ片割れといってもいいくらいに。
…二卵性、なんだけどね。
「それにしたって…あんなもん見せるなよ…。」
あんなもん?ああ、それね。
「それじゃあ見せずにいたほうがよかった?そのままお風呂場に行きそうな勢いだったけど?」
「そのせいでオレは襲われたようなもんだぞ?」
「それはあんたがそれを飲ませたからでしょ?」
「…。」
「それとも何?見せずにそのままお風呂に行かせたほうがよかった?」
「…。」
ゆうたは何も言わない。
いえるわけがない。
ゆうたの図星となるところを言っているんだから。
揚げ足を取るのは得意なんだから。
ゆうたがあたしに口で勝てるわけがないんだから。
それでも、思う。
「別に拒む必要なかったんじゃないの?」
「…は?」
あたしの言葉にゆうたは素っ頓狂な声をあげた。
何言ってるんだこいつは。
そう言いたげな顔をして。
わかってるんだろうが、というような顔もして。
「別にそこまでの美人の欲求を拒む必要はないんじゃないの?」
「…あやかさ、わかってるだろ?」
わかってる。
ゆうたがそんな酔ったような状態の相手としたところで喜びはしないこと。
それからゆうたが彼女に抱いているもの。
その感情だって、わかってる。
それでも。
わかっていても聞きたくなるものはあるんだから。
あたしは女。
ゆうたは男。
いかに双子といえど男と女じゃ価値観が違う。
ゆうたの気持ちがわかったところでゆうたの男を完全に理解するのはできないのだから。
だから、気になる。
本当はどうだったのか。
あれほどの美人に求められてどうなのか?
男だったら頷いてそのまま行為をしてしまいたかったんじゃないか?
男だったら嬉しい展開じゃないのか?
キスをしてまで拒む必要があったのか?
別にそれ以上しても問題はなかったんじゃないか?
ゆうたは先ほどのキスが初めてだ。
そしてフィオナのほうも、そうだろう。
あれを見ていたときの反応、あまりにも初心な感じがした。
淫
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