「本当はね、あんたのこと…嫌いってわけじゃないんだよ。」
それはユウタの双子のお姉さん、アヤカの言葉。
私がユウタの背中を流そうとして脱衣所に侵入したところで私は彼女に連れ出された。
連れ出され、ここリビングのソファに座らされた。
まったくユウタったら。
大声上げてアヤカを呼ばなくてもいいじゃない。
別にあのまま入れてくれたっていいじゃない。
お礼として…受け取ってくれてもいいじゃないの。
そんな風に思いながらも私は手渡されてたクッションを抱きしめ、隣に並べられている同じソファに座ったアヤカを見た。
触れればそのまま沈んでいきそうな黒髪。
見ているだけで吸い込まれそうになる瞳。
ユウタと同じ色。
しかし感じるものはユウタとはまた違う。
顔を見てみた。
整った顔。
人間の中でも可愛いほうにはいる彼女の顔。
揃えられた眉。
桃色の唇。
くりくりっとした目。
肌には傷なんてものはなく、輝くような白い肌。
男性に受けがいいと思えるその造形。
女性にも受けがいいと思える。
おそらくそれなりに人気があるのではないだろうか。
リリムの私にもそう思えた。
「―…あたしはさ。」
彼女は言った。
私を見て、先ほどのように嫌な表情を浮かべずに。
これといった表情も見せないで。
「あたしは、あんたみないなのは嫌いなんだ。」
「っ!」
正面からまたとんでもないことを言われた。
また、今まで言われたことのない言葉だ。
嫌い。
そんな言葉を私に言うものは今までいなかった。
男性も女性も友人にさえもそんなことを言われなかった。
それを彼女はハッキリと言う。
私に向かって、面と向かって。
隠すこともなく、飾ることなく、婉曲させることもなく。
ただ真っ直ぐに。
「ああ、勘違いしないでね。あんたが嫌いっていうわけじゃなくて、『あんたみたい』なのが嫌いなの。」
「…。」
それはどういった違いがあるのだろうか。
私みたいなの?
それは…いったいどういうことだろうか?
「それってどういうことなの、アヤカ。」
「どうもこうも。」
彼女は淡々とした口調で言う。
変わらない口調で。
私を前にしても、ユウタを前にしたときと変わらない調子で。
でも、少しばかりうんざりとした声で。
「あんたみたいなのは今までに何度か会ってきたんだよ。…いや、違うや。
―何度もゆうたに引き寄せられてきてるんだよ。」
「…?」
意味が、わからない。
それは何がどういう意味なのだろう。
引き寄せられて?
それは…どういったことなのだろうか。
「昔っからそうなんだ、ゆうたは。」
アヤカは語り続ける。
「ことあるごとに『そういったもの』を引き寄せてくる。困ったことにそれが明らかに『人じゃないもの』なんだよ。」
「…人じゃない?」
「あんたに近いっていうのかな。」
アヤカは私は指差した。
私に…近い?
近いってそれは…?
「あるときはね、修学旅行先のところで変な京都弁を使う女の人に手を引かれてるのを見た。別にそれくらいならいいんだけどさ。その女の人…。」
そこでいったん切って彼女は続ける。
話していいのか迷ったわけじゃないだろう。
私に聞かせていいのか迷ったわけでもないだろう。
アヤカは言った。
「影にね、尻尾があったんだよ。」
「…?」
影に…尻尾?
「それも一つじゃなくて四つ。しかも頭には獣みたいな耳ときてる。あたしはそれが見えた。ゆうたはそれを見て見ないふりをしてた。周りにいたってはそれが見えてなかった。」
獣の耳?
そして四本の尻尾?
それは…稲荷や妖狐の類じゃないのだろうか?
アヤカは語り続ける。
「他にもいたよ。海に行けば髪の毛ピンク色、赤い帽子を被った女の人と話してた。海に浸かった状態だから体は見えなかったけどね、その女の人の下半身、あたしは潜って見たんだよ。」
「髪の毛がピンクで赤い帽子…?」
「そう。それでいて下半身は―赤い鱗の魚だった。」
「っ!」
それは間違いようがない特徴。
それは明らかに―メロウ。
猥談が好きなマーメイド種。
「まだまだいるよ。ゆうたが引き寄せてきたものは。」
アヤカは続ける。
「一番酷いのはお父さんの実家だよ。あの田舎にはそういうものが沢山いた。」
そう言って手を見せた。
握った手を。
それから指を立てていく。
「小さい頃からゆうたにやたら懐いた猫。あれはあたしと二人っきりになると…しゃべるんだよ。猫の癖に猫被ってさ。」
しゃべる…猫!?
それはワーキャットじゃないの…いや。
それはワーキャットじゃなくて、ジパングにいるっているネコマタという魔物じゃ…。
「おばあちゃんが大切にしてた提灯もゆうたが持つと嬉しそうに光るんだよ。」
提灯が…?
「それから。」
アヤカの顔が変わった。
一気に冷めた表情になった。
私に向けたあの表情にどことなく似ているその顔で。
彼
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