外と貴方とオレと膝枕 前編

朝食としてジパング料理という向こうの世界でよく口にしていたご飯、味噌汁、焼き魚という典型的な日本食を食べて。
故郷に似た味にしんみりとしつつ。
朝食後とくにすることもないのでオレとフィオナは二人して外にいた。
用事があるのは午後から。
午前中はすることがない。
なので適当にぶらついたり城下町へと散歩しに行こうかとも思ったが近かったのでここにいる。
外といっても広場。
魔王城の庭である。
整備された芝生の上に二人はいた。
一人は足を伸ばして座っていて。
もう一人は伸ばされた足の、腿の部分に頭を乗せて寝転んでいる。
まるで腿を枕にしているかのように。
傍から見たら見間違えようのないこの姿勢。
膝枕である。
ただし、オレが枕役だけど。
うーん…普通は逆だよな。
普通は女の子の膝の上に男の子が頭をのせるんだよな。
フィオナの膝でオレが寝るのが普通だろうに。
オレの腿に頭をのせているフィオナ。
心地よさそうな笑みを浮かべて目を細めている。
時折頬を摺り寄せるのだがそれがまたくすぐったくも心地いい。
まぁ、いいか。
こんなフィオナ、見られるんだし。
たまには、いいか。
そう思ってオレはフィオナの頭を撫でる。
「ん〜♪」
ただそれだけでも彼女は可愛らしい声を漏らす。
猫みたい。
そういえばお父さんの実家で飼っている猫がいたな、なんて思い出す。
捨て猫だったのか野良猫だったのか。
おばあちゃんがどこからか引き取ってきたらしい。
あれがやけにオレに懐くんだよな。
友達の家にいた人に慣れた猫でさえオレに寄ってこなかったのに。
不思議だ。
時折オレの言葉を理解しているような行動もしてたし…。
…ただ、我が麗しの暴君こと双子の姉が異常なほどに気にしてたな。
まるで師匠を相手にしてるかのように。
…なんでだったんだろ?
そんなことを考えながら上を見た。
上、空。
薄暗く黄昏時のような色の空だ。
魔界というのは魔物や人間が暮らしている表の世界とは違う。
薄暗い空の色や、変わった形の植物、わずかながらに魔力を含んだ空気とさまざまなものが。
表から来た人は禍々しいなんて印象をもつらしい。
そうだろうか、と思う。
別にこれはこれで綺麗だと思うのに。
オレのいた世界じゃ見られない風景。
それは奇妙で興味を引くものである。
そう思ってしまうのはオレの価値観がおかしいのか、それともオレが別の世界の人間だからか。
別世界。
向こうの世界。
こうやって何もせずにゆっくりと空を眺めたことなんてあっただろうか。
フィオナの頭を撫でて特にすることもなくのんびりとしていたオレはそんなことを考えてしまう。
向こうじゃただ勉強勉強の日々だったからなぁ。
わずかな時間さえ勉強にまわして大学合格に向けて頑張るだけの日々。
色なんて既にない、つまらない繰り返しの日々。
あの頃からすればこんなことになるなんて予想できなかった。
…予想できるわけないな。
別の世界に召喚されて、魔王の娘と結婚して。
とにかく、勉強から身を引いてまったく違うことをこなす日々となった今現在。
向こうで学んでいたことが結構役に立てていたりする。
食堂の料理の手伝いだったり、学んだ知識の披露だったり。
時にはクレマンティーヌの補佐を勤めてこの世界の政治などに関わることもある。
といってもオレが出来るのは向こうでやっていたことをただ話すだけだけど。
でもそれはそれで、向こうにいたときよりも充実した、色のある日々だ。
…別の意味の色も、ありまくりだけど…。
でも、こんなことを考えたり。
こうやってフィオナが心地良さそうな顔をしてるのを見れて。
この世界に来れてよかったと、つくづく思う。
そんな風に思いながらオレは瞼を下ろそうとしたそのときだった。
「おや、ユウタ君じゃないですか。」
「ん?」
その声に目を向けるとそこにいたのは薄青い肌で透き通るような緑の長髪をした美女がいた。
ただし、下半身が蛇。
フィオナ同様人間ではない。
エキドナ。
魔物の母。
オレのいた世界でも魔物の母と神話で描かれていた存在。
名をエリヴィラ・アデレイト。
…えっと…実に言いにくいけど…その…。
オレの、二人目の妻である。
…二人目。
向こうの世界じゃ法律上認められていない、重婚である。
厳密に言えば重婚を認めている国もあるらしいけどオレの住んでいたところでは犯罪になる。
だが、こっちの世界じゃ向こうの法律もオレの価値観も関係ない。
苦笑してしまう。
まだ後三人、計五人の妻がいる自分に。
気づけば複数の女性を愛している自分に。
もしかしたらさらに増えるかもしれない、なんて恐怖している自分に。
向こうの世界の価値観を持ちながらも皆を愛して。
頑張りながらも毎晩尽くして。
あの頃とは違う日々を過ごして。
本当に、変わったと思う。
「何をしているのです
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