朝と君とオレとキス

「…んぁ。」
起きた。
柔らかな枕の上。
温かなベッドの上。
薄くも手触りのいい高級感溢れるシーツに包まれながらオレこと黒崎ゆうたは目を覚ました。
もう朝か…。
普段なら目覚まし時計の電子音で目が覚めるのだがこういった日も少なくない。
目覚ましよりも先に起きる。
どうやら体が覚えているのかその時間になると自然と目が覚める。
こういう日は目覚めが良くて行動もしやすい。
…でもまだ寝ていたいと思っちゃうんだよな。
よし、後5秒寝よう。
5秒数えたらここから出よう。
1.2、3―
「―起きちゃったよ。」
後2秒あったのをすっ飛ばして起きちゃった。
思い切り目が覚めちゃったよ。
まぁいいか。早く起きたほうが色々と準備できるし。
朝飯の用意しないといけないし。
そう思って体を動かす。
ええと…昨日買った卵で何を作るか…。
あいつのことだ、朝からこってりした油物を出したら残される。
だったらやはり軽めの朝食にするか。
朝食の準備をしようとして体を起こそうとしたそのときだ。
「…?」
体が動かない。
なんていうか…重いんだ。
一人分の体重じゃないというか。
オレの重さじゃないというか。
時折目が覚めて倦怠感は感じることはあるが…それじゃない。
まるで誰かが抱きついているとかそんな感じ。
それにさらにおかしいことがある。
温かい。
先ほどまで寝ていたから体温がベッドに伝わったとかじゃなくて。
まるで抱きしめられているかのように温かいんだ。
そして柔らかい感触も感じる。
何だこりゃ。
まだオレは夢の中にでもいるのかよ。
そんな風に思いながら手を動かして体におかしなものがないか探る。
…触れた。
何か…柔らかくて温かいものに。
「あんっ♪」
…あれ?声がした?
しかも女性の声。
いけね、これ本当に夢か…?
まだ夢の中かよ…。
参ったな。
すりすりとまるで頬ずりされているかのようなものを胸板に感じて。
腹に胸を押し付けられているかのように柔らかなものを感じる。
なんてこった早いとこ夢から覚めないて朝食を作らないと…。
とにかくオレは視線を体のほうへと下げた。
体にくっついているものを見るために。
黒い瞳に映ったそれは―白。
雪のような穢れのない白い髪の毛。
そこから生えているのは二本の角。
その他にも陶磁器のような綺麗な肌。
その肌を晒すことを惜しまずに体には服を纏っていない。
気づかなかったがオレ自身も同じように服を着ていない。
共に裸。
裸で抱きついているそいつは。
「…あれ?」
そいつの正体をオレは知っている。
それがいったい誰なのかオレは知っている。
フィオナ・ネイサン・ローランド。
魔王の娘でリリム。
オレを現代世界から召喚した女性で。
どんな男でも魅了するような魅力を持っていても純粋な乙女で。
ちょっと我侭だけど可愛らしいオレの愛しい想い人。
その姿を見てああと思う。
まだ寝ているのに身を捩って唸る姿を見て思う。
そうだったと。

―今は…こっちが現実なんだ。

いけないいけない。
どうも最近現実と夢が混同してしまう。
いつもはそんなことないのに。
朝目が覚めてもちゃんとしているのに。
こっちが現実。
あっちが夢。
それが『今』で。
あれは『過去』なんだから。
「…ぁ。」
だったら早く起きる必要はないか。
別にいつものように朝食を作ってもいいんだけど今はこうしていたい。
向こうの世界では感じることの出来なかったものを感じていたい。
愛しい女性を抱きしめることの出来る喜びを堪能していたい。
オレはフィオナの背中に手を回して抱きしめようとした、そのときだった。
ぐぅ〜、と。
結構大きな音が腹から響いた。
…腹、減ったな。
昨夜だって十分食べたのだが既に消化しきっているのだろう。
更なる栄養を求めているのだろう。
そりゃそうだ。
昨夜はとんでもないくらいにその…求め合ったんだから。
一桁で終わるわけもない。
サキュバスの最高位にいるリリムと性欲お盛んな学生。
そんな二人がたかだか数回で終わるわけもない。
さらに言うとオレはもう人間ではなくなっている。
フィオナと体を重ねていたことからか、それとも魔界という違う環境に生きていたからか。
いつの間にか気づいたらそうなっていた。
インキュバス。
魔力というものを糧に生きる魔物らしい。
別段外見は変わったところはない。
いや、外見は変わらなくなったといったところか。
若々しいままでいられることはいいと思うけど…せめて二十歳位まで成長したかった。
いやね、十代で成長が止まるってことは性欲もお盛んなままでいいんだけどね。
インキュバスになってから性欲が異常に高くなった気もするけど。
インキュバスになってから魔力を糧に生きてるんだろう。
だから空腹とかも感じない…はずなんだけど。
やはりそう簡単に生活リズム
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