後編

只今の状況。
オレはエリヴィラに巻きつれていた。
ただし、骨を折るようなとんでもない力で。
…あ、既に一本くらいなら折れてるけど。
既に満月は真上に昇りオレの目的の時間は過ぎた。
ただ、過ぎたのは良かったが…。
隠していたことがばれてしまった。
というのも時間になればハーピーに運ばせるハーピー便を使ってこの日のために注文していたものがあった。
時間に正確なハーピー便。
だがハーピーは勿論女性であったことによりエリヴィラさらに激怒。
状況悪化。
そして彼女が持ってきてくれた荷物は手渡された。
本当ならそれ受け取るのはオレだったのだが。
なぜかエリヴィラが受け取ってしまった。
そもそも巻きつれているこの状態では手が動かせない。
身じろぎ一つも許されない。
だから仕方ないといえば仕方ないんだけど…。
そして運んでいた荷物を渡し終えたハーピーは脱兎の如く逃げ出してしまった。
こんな状況で部外者がずっといたいと思うわけはないだろう。
こんな壮絶とした喧嘩の中、仲裁役でも買って出てくれるわけないよな。
で、今現在、エリヴィラにきつく巻かれている状況にあたるわけで。
「ユウタ君。」
「…はい。」
状況が振り出しに戻っていた。
エリヴィラはハーピーから受け取った袋をオレに見せる。
とてもすばらしい笑みで。
とんでもなくどす黒い笑みで。
「これは…何ですか?」
「…えっと。」
どうしよう。
言いたいんだけど…いえない。
せめて自分の手から渡したかったのに。
「これは…いったい何なのですか?」
その言葉と共にエリヴィラの体がまた一段ときつく締め上げてくる。
怒っていらっしゃる。
なんか勘違いしていらっしゃる。
たぶん、最悪な勘違いを。
あのハーピーが持ってきたものをオレへの贈り物だと思っている。
あながち間違いじゃないけど。
でもこれは。

―エリヴィラへの大切な贈り物。

オレからの、大切な女性への贈り物。
一生に一度だけの大切な証。
いまだにエリヴィラに締め付けられていながらオレは仕方なく言う。
これはもう何を言っても聞き入れてもらえない。
それなら見てもらったほうがいい。
そっちのほうが早い。
「エリヴィラ。それ、あけて中身見てみてよ。」
「…これはユウタ君への贈り物でしょう?」
「オレからの贈り物で、エリヴィラへの…だよ。」
「…?」
オレの言葉に怪訝そうな表情を浮かべながらエリヴィラは袋を開けた。
その中にあるのは思った以上に小さいものだろう。
片手で包めるぐらいの大きさのものだろう。
エリヴィラはそれを手にとって出した。
予想通りの大きさの小さな箱。
漆黒色の小箱。
止め具の付き方により開き方はわかるだろう。
「…ユウタ君…これって…。」
エリヴィラは先ほどまでの怒りを感じさせない声で言った。
驚愕と、期待に溢れた声。
驚きと、不安に染まった表情。
その声に、その表情に、オレは微笑みかけた。
「本当ならオレの手で渡したかったけど…仕方ないかな。それ、あけてみて。」
オレの言葉にエリヴィラはゆっくりと箱を開けていく。
貝殻を開くように。
壊れ物を扱うように。
中身をゆっくりと確かめるように。
そして、エリヴィラの表情が変わった。
「…っ!!」
そこにあるのは見なくてもわかる。
なぜならそれを作ってもらうように頼んだのがオレだから。
デザインもそこに使われている宝石も。
オレが考え、オレが選んだものだから。
エリヴィラの手が震える。
信じられないといわんばかりに。
そして、オレに箱の中身を見せてきた。
確認のためか、オレの隠していた事の真相を知りたいがためか。
相変わらず驚愕を浮かべたままで。
「ユウタ、君…っ。」
「そういうことだよ、エリヴィラ。」
箱の中にあったのは―

―二つの指輪。

同じデザイン、別々の宝石を埋め込んだ指輪。
この世界じゃめったに見られないような紋様を小さく刻み、それを取り巻くように蛇が巻きつき、輪を作っている。
蛇の目にある宝石は片方は黒い宝石。
もう片方は金色の宝石。
それはオレの瞳の色であり、エリヴィラの瞳の色と同じ色の宝石。
これを探すのは結構大変だった。
それ以上に大変だったのが…この指輪を一から造ってもらうのに必要だったお金を稼ぐこと。
基本的にオレはエリヴィラと共にいるから一人稼ぎに行くのは難しい。
それにエリヴィラがどこで見つけてきたのかとんでもない量のお宝を洞窟の最深部の部屋に置いている。
一生遊んでもお釣りが来るくらいの量。
確かあれで外から冒険者をおびき寄せてたんだっけ。
とにかくとんでもない量のお宝があるので大してお金には困っていない。
ゆえに働き稼ぐ時間を二人仲良くいちゃいちゃする時間に当てられるから良かったんだけど…。
流石に今回の贈り物は自分の稼いだもので贈りたい。
彼女の力を借りず
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