貴方と気持ち

「いったい何をさせればこうなるのですか!!」
それは怒鳴り声。
私の部屋から響く大音量の声。
その声の主はエキドナのエリヴィラ。
長い付き合いだけどここまで怒る彼女を前にしたことは初めてだった。
「体中を傷だらけにして!大量出血をして!ここまでしているのに生きていることが不思議というほどの怪我じゃないですか!!」
その怒りの対象は私。
その怒りの原因はユウタ。
ユウタをこれほどまでに怪我させてしまったことについて、だ。
「ユウタ君にいったい何をさせたのですか!!?」
その剣幕は普段のエリヴィラからは予想できないほど恐ろしい。
あの優しく温厚なエリヴィラがここまで怒っている。
それは当然かもしれない。
想い人をここまで傷つけられれば誰だって同じような反応をする。
私だって、本当ならこのような反応をしていたはずなのだから…。
私は怒る彼女を前に俯くことしか出来ない。
私の部屋のベッドに寝かせているユウタをまともに見ることさえ出来ない。
エリヴィラと顔を合わせることも、出来そうになかった。
ユウタ。
今は意識を失ってしまっている青年。
私を助けに来てくれた男の人。
あの勇者を、教団にとって最高戦力を打ち破った者。
私の召喚した…人間。
服は傷だらけでボロボロになってしまい、今は着ていない。
見える体には傷らしい傷はない。
それはほとんどエリヴィラが治してくれたからだ。
それでも。
エリヴィラでも一度にここまでの量の傷を直すことは出来ないらしい。
一見傷のないように見えるユウタの体もまだ傷は残っている。
風魔法で出来た鋭い切り傷だったということが幸いか傷跡は残らないらしい。
それでも、完治できているというわけではない。
激しい運動なんかすれば傷が開いてしまうくらいらしい。
ユニコーンがいてくれればユウタの傷をすぐに治してくれるだろうけど…それは無理だろう。
彼女たちがこの魔界にいるとは考えにくい。
だからといってこの城で治癒魔法を使える者なんてそう多くない。
怪我を負ってきた騎士たちのためにそういった者達がいるはいるのだがそれでも、エリヴィラのほうが技量はずっと上だ。
だけど、私も。
私だって治癒魔法が使えないわけではない。
エリヴィラほどでもなくてもそれなりには出来る。
出来る…けど。
今の私には魔力がない。
治癒魔法を使えるだけの魔力は既に残っていない。
そもそもこの城へ戻って来られたのは他の者に手を貸してもらったからだ。
私とユウタを運んでもらったからだ。
ベッドの上に寝ているユウタ。
その顔は普段に比べて…いくらか白い。
血が足りていないからだろう。
あまりにも傷を負いすぎて、血を流しすぎたからだろう。
ここまで血を失って、ここまで傷を負っているというのにユウタはまだ生きている。
エリヴィラの言ったように生きているのが不思議なくらい傷を負っているのに。
私のせいで…傷を負わせてしまって…。
「…。」
何も言えなかった。
エリヴィラに対する謝罪をしようとしても口が開かなかった。
私が悪いことはわかっている。
そんなこと百も承知だ。
私が一人で出て行ったからユウタは傷ついた。
私が教団にあんな規格外な存在がいると思ってなかったから。
だから、ユウタはそれから私を守るために傷を負った。
それ以前に。
私はユウタにひどいことをしてしまった。
ユウタの人生を横取りしてしまった。
理不尽に理不尽を重ねてしまった。
こんなの…最悪だ。
ユウタに甘えて、ユウタにねだって、ユウタに守られて。
ずっとユウタに迷惑をかけて…。
こんなの…こんなのって…最悪だ。
私はただ俯くことしかできなかった。
気を抜けば今にも目から雫が零れてしまいそうだったから。
そんな私を見ているエリヴィラはため息をつく。
クレマンティーヌのように呆れたようなものではない。
仕方ないというようなため息。
「本当なら…何をさせたのか問い詰めたいところですが…貴方は謝罪の気持ちを感じているのですね…。」
そう言って静かに椅子から立ち上がった。
「血を、とってきます。」
エリヴィラは言った。
私を見てじゃなく、ユウタを見て。
「これ以上は私の治癒魔法でも出来ません。流石に失った血を復元できるほどの魔法は私も知りませんからね。」
そう言って今度は私を見る。
「クレマンティーヌさんに言えばユウタ君の血と似たものを用意してくれるかもしれません。ですから私がクレマンティーヌさんに言ってくる間、ユウタ君のことを頼みましたよ。」
そう告げてエリヴィラは出て行った。
静かにドアを開け、同じようにドアを閉めて。
そうして私の部屋にいるのはユウタと私だけになった。
「…。」
何も言えない。
意識のないものに何を話せばいいのかわからないからじゃない。
ユウタを前に言いたいことがあったはずなのに。
言え
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