ユウタは立つ。
私と勇者の間になるように。
私の前に。
私を庇うように、守るように。
「おや、その魔物を渡す気はないのですか?」
勇者は不思議そうな顔をして聞いてくる。
ユウタが私の前に立ったことを理解できないというように。
「渡したらどうするつもりなんだよ。」
「勿論殺しますけど?」
「そんな奴に渡すわけねーだろ。それ以前に―」
ガァンっと、金属が打ち合わさる音が響いた。
それもユウタの手から。
いつの間にか付けていた漆黒色のガントレット。
それを私は知っている。
ヘレナやセスタが持っていたもの。
私の親衛隊に配布される防具だ。
軽くて丈夫。
城にいるサイクロプスが作ったガントレット。
生半可な攻撃では砕くことなどできはしない。
そこらの盾よりもずっと強くて軽い防具。
それを殴り合わせてユウタは言った。
私に向けたことのない声で。
私に聞かせたことのない声色で。
「フィオナを傷つけた。そんな奴、許せるかよ。」
ドキリと胸が高鳴った。
ユウタの言葉に心が躍った。
こんな状況で不謹慎かもしれない。
だけど、その言葉が。
ユウタが言ってくれたことが、嬉しかった。
「そうですか。」
勇者は言った。
私に向かっていったときよりもずっと感情を込めた声で。
悲しげな声をユウタに送る。
「それは残念ですね。」
そう言って勇者は剣の柄を握りなおす。
ユウタを迎え撃つために。
「それならボクは貴方を傷つけてまでもその後ろの魔物を殺すとしましょうか。」
「させるかよ。」
その一言にユウタは歩き出した。
勇者へと向かって。
ゆっくりと、確実に距離を詰める。
「フィオナは殺させないし、傷つけさせねーぞ。」
「守るというのですか?」
「それ以外にどう聞こえるんだよ?」
その言葉に勇者も歩き出す。
手に握った剣をユウタへと向けて。
「ボクとしては同じ境遇の男性を痛めつけたくはないのですがね。むしろ親しくなりたいのですね。」
「あっそ。そんなの願い下げだ。もっと女性に気を配れるようになれよ、男らしくさ。」
「それは無理ですね。ボクは女性が殺したいほど嫌いですから。」
「それじゃあ最初から無理だって言うんだよ。」
そもそも。
そう言ってユウタは走り出した。
一気に加速し、勇者との距離を詰める。
それに対して勇者も走り出す。
黄金の鎧が音を立てて近づく。
そして。
「―フィオナを傷つけた奴と仲良くするつもりなんかねえよっ!!」
激戦が始まった。
最初に攻撃を入れたのは―勇者だった。
「ふっ!」
一閃。
鋭い銀色が閃いたのが見えたと思ったら。
―轟音。
金属と金属がぶつかり合う音。
耳を塞ぎたくなるような爆音にも似ていた。
そんな音が二人の間から響く。
見えなかった。
勇者の剣筋が。
わからなかった。
剣が振られたことさえも。
私は人間よりも身体能力は上だ。
熟練の戦士にでも余裕で勝てるほどに。
それが私たち魔物。
それなのに、見切ることも出来なかった。
勇者の振るう剣撃を。
命を狩る攻撃を。
正しく勇者というのに相応しい攻撃だった。
「―っ!」
「おや、受け止めましたか?」
その言葉に見てみれば。
ユウタは。
右腕でその剣を受け止めていた。
もう少しで肌を切り裂こうとするスレスレのところで。
漆黒のガントレットを盾のようにして。
震える腕で剣を受け止めていた。
でも、それはきっとまぐれかもしれない。
一回だけ、偶々上手く止められただけかもしれない。
ユウタに勝って欲しいのに。
あの人間の領域を超えた攻撃を止められるわけがないと思ってしまう。
勇者はまだまだ止まらない。
「それなら―これはっ!」
再度、銀色が閃いた。
その光が見えたと思えば再び轟音が響き渡る。
広い草原に鳴り響く。
さらに橙色の火花までが散った。
「―はっ!受けきりますか!それは結構です!」
それは勇者の言ったとおり。
ユウタはまたも受け止めていた。
さっき振るわれたのとは反対側から。
剣を目にも留まらぬ速度で斬られたというのに。
その斬撃を。
その攻撃を。
ユウタは左腕で受け止めていた。
「ふん、だからどした?」
そういったユウタの表情は見えない。
見えるのはユウタの背中と腕だけ。
ただ声色からするにユウタはそれほど焦っているわけでもない。
恐怖を感じているわけでもなさそうだった。
「それは、結構。それなら―」
勇者は動き出す。
さっきよりも早く。
まるで先ほどの攻撃は手加減してやったとでも言わんばかりに。
速く、素早く。
鋭い銀色を閃かせる。
「―これはどうですかっ!?」
そこからは轟音しか聞こえなかった。
勇者の動きさえ見えなかった。
速すぎる。
剣を振るうその感覚が。
魔物の私でさえ目で追えるような速度ではない。
人間ならばその速度に追いつけずに切り裂かれることだろう。
細切
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