ユウタが来てからもう五日。
ユウタと共に過ごす毎日は独りで過ごし、まだ見ぬ旦那様を探しに行っていたあの色のない日よりもずっと素晴らしかった。
時間の流れを早く感じる。
まるで止まっていた時間が動き出したような。
色あせた世界に色が戻ってきたような感じがする。
だが、この五日間。
ユウタは私からの接触を極力避けていた。
手足が触れ合う程度ならまだ平気。
なのだが。
手を繋ごうとしてもすり抜けられ。
抱きつこうにもかわされ。
胸を押し付けてみようにも一歩引かれて届かなくて。
寝ている間に抱きついてもいつの間にか逃げられて。
腕枕さえ許してもらえず。
それならとキスをせがんだらお説教をもらった。
そんな大事なことはちゃんと好きになった男とやれ。
決まってユウタはそう言うのだ。
許してもらっていることといえば頭を撫でるくらい。
…少ない。
年頃の男女はこんなものだろうか…いや違う。
あまりにもユウタが引きすぎている。
一歩身を引いているというか。
一線を守っているというか。
これ以上進むのを拒んでいるようで。
私と触れ合うことを拒否している。
または、私に触れさせないようにしている。
だが。
それは私にとって逆効果かもしれない。
私はリリム。
男を求めずにいられない魔物。
ユウタが遠ざかれば遠ざかるほど。
ユウタが拒めば拒むほど。
私は彼を欲する。
その体を。
その精を。
ユウタの全てを求める。
この五日間、よく耐えたと思う。
本当なら私の魅力でユウタは私を求めずにはいられなかったはずだ。
私もユウタを構わず襲っていたはずだ。
それなのにユウタは平然としている。
私を頑なに拒み続ける。
だから。
私はユウタから精をもらえない。
私を襲わないから。
私が襲えないようにするから。
そんなことをするから。
私の本能は。欲望は。
私に命令を下す。
私を、支配する。
ユウタを襲え、と。
もともとそれが理由で召喚したようなものだった。
だから、私は命令に、本能に従うまで…。
抗わず、刃向かわず。
素直に、従順に。
だが、真正面から襲い掛かってもユウタを襲えるとは思っていない。
それどころか必ず止められる。
確実に拒まれる。
腕力だって人よりはあると思うけど、きっとユウタのほうが上。
力でねじ伏せるにもそんなことは出来るわけない。
バフォメットであるヘレナに一撃入れたというのだ、それなりの実力はあると思っていい。
それなら魔法でも使ってしまおうかしら…。
それならユウタにも効果は出て…くれなさそうだ。
私の近くにいるのに魅了されないのだから魔法でどうにかなるようなものでもない。
それなら手はない?
いや、まだある。
私が襲えないというならユウタから襲ってもらおう。
ユウタが私を求めるように仕向ければいい。
ユウタが私を欲しくなるように。
―誘惑、してあげればいい。
ユウタを誘って、惑わせばいい。
それなら簡単だ。
誘惑なら私にも出来る。
あのお母様の娘なんだから、それくらい余裕のはずだ。
…それでユウタをその気にさせられるかはわからないが。
それでもやろう。
私は本能に支配されながらも冷静に着々と準備を進めた。
男の人は女の人の裸に弱い。
それは私が町に出たとき露出の多い格好をしているときによくわかること。
男の人の視線が集まるのは私の体質だけではないはずだ。
だからユウタは私にもっと露出の少ない服を着ろと言っていた。
変な男が寄ってこないようにと。
あれはユウタ自身が襲わないようにという意味も込められていたのではないだろうか?
それなら…きっとユウタも女の人の裸には弱いはずだ。
だから。
それで迫ってみよう。
ただ迫ってもユウタは逃げるらしい。
それも恐ろしく早く。
他の魔物娘から聞いたのだけど、ユウタに迫った娘がいたらしい。
この五日間に、すでにそこまで興味を持った者がいるということ。
その事実は私自身、嫌な思いにさせられた。
何でかはわからない。
ただ、嫌だ。
他の娘といることが、なぜだか嫌だった。
だがそれでもいい話を聞いた。
迫ってもユウタは逃げ出す。
何をしようと必ず。
この前はクイーンスライムがユウタに襲い掛かったと聞いたけどそれすら避けた。
あのスライムを、だ。
流動体で形のない娘をどうやって避けたのだろう…。
他にもこの城にいるリザードマンが勝負を仕掛けたのに煙のように消えたとか。
ラミアに巻きつかれながらも抜け出して逃げたとか。
あれならドラゴン相手でも逃げ切るんじゃないかといわれるほど素早いらしい。
そんなユウタを捕まえるなんて事私はできない。
以前何からか逃げていたのだろうか?
とにかく。
狙うのはユウタが逃げられないようなとき。
ユウタが逃げ出したいと思わないときだ。
それで考え付いたのは。
思いついたところ
[3]
次へ
ページ移動[1
2 3 4 5 6..
9]
[7]
TOP [9]
目次[0]
投票 [*]
感想[#]
メール登録