落ち着く香り。
温かな体温。
安心する柔らかさ。
オレを包み込む感覚はそんなものだった。
それらは全てマリ姉からのもの。
マリ姉がオレを抱きしめたから感じるもの。
「マリ…ねえ…?」
「ごめんね、ユウタ。」
それは謝罪。
先ほど聞いたのと同じ言葉。
だが。
マリ姉はオレに言い聞かせるように。
まるでオレを落ち着けるように優しく言葉を発した。
背中まで腕をまわして。
ベッドに横たわるオレの体をしっかりと抱き寄せて。
呟くように言った。
「その…思わなかったから…。」
「…え?」
何を…思わなかったんだろうか。
やはりオレがマリ姉にキスをされたことだろうか?
あの時意識があったなんて気づいていなかったことだろうか。
「その…ね。」
マリ姉ははっきり言おうとはしない。
迷っているように。
恥ずかしがっているように。
言葉を慎重に選んでいるようだった。
それでも体は迷うことなくオレの体を抱きしめていて。
押さえつけるように、逃がさないようにしていた。
自分自身が、逃げ出さないように。
オレを抱きしめることで逃げないようにしているかのようだった。
そしてマリ姉は口を開く。
頬を赤く染めたその表情で。
迷いに迷って選んだ言葉をオレに伝えた。
「ユウタも…私を好きだなんて…思っていなくて…。」
………も、か。
やはりあの男もマリ姉のことを好いていたのか。
そんなこと言われなくてもわかっていたさ。
だから、オレの恋は叶わないんだ。
言われなくてもわかっていたことだ。
「…マリ姉。」
「…その…。」
そう呟くオレにマリ姉は言葉を繋ぐ。
まだ言いたいことの途中だったようだ。
オレは静かにその言葉を聞く。
のだが…。
それはオレの予想外な言葉だった。
「りょ…両想いだなんて…思ってなくて…。」
「…うん?」
何て言った?
今、マリ姉は何て言った?
両想い?
両想いって…え?
それっていわゆる…相思相愛ってこと?
いやいや、そんなまさか。
マリ姉はあの男が好きなんだ。
オレなんてガキを好きになるはずがない。
だから今の発言はきっと…。
…オレに対する慰めの言葉。
「いいって…マリ姉。そんな無理しないで。」
ファーストキスの相手に、初恋の相手にこんなことをしてもらいたくはない。
でも…。
夢でも、嬉しい。
そんな上っ面な言葉だけでも、嬉しかった。
「無理してなんかないっ!」
それは怒鳴り声に近かった。
普段優しくお淑やかなマリ姉からは考えられない悲痛な声だった。
顔を向けて見てみればそこにいるマリ姉は。
今にも泣き出しそうな顔をしていた。
「マリ…姉…?」
「…まったく。」
泣き出しそうな顔をしたと思ったら今度は呆れたような表情になった。
それでも微笑を浮かべて。
オレを見ている。
どうしたというのだろう。
「ユウタは…鈍感ね。」
「…鈍感…?」
オレが不思議そうに繰り返すとマリ姉はふふっと笑った。
いつものように。優しげな笑み。
「そうよ。こんなにしてるのに…全然意識してくれないんだもの…。」
「こんなにって…?」
「…まったく、本当に鈍感ね。」
マリ姉はオレの背にまわしていた腕をより強く引き寄せる。
そんなことをすれば自然とオレの体はマリ姉と密着する。
その柔らかく温かな体が接触する。
今のオレはとても軽装だ。
寝巻きなんて買ってもいないので寝るときはディランさんからの借り物のシャツとオレのトランクス。
それらのみ。
なのでマリ姉の体の感触はもろにオレの体に伝わる。
「っ!?マリ姉!?」
「こんなこと…好きな人以外にするわけないじゃないの…。」
信じられなかった。
それでも心のどこかで信じたいと思っているオレがいた。
そりゃ…好きな女性からの好意を寄せられているなんてことを言われれば嬉しい。
胸は躍るし心弾む。
でも…それじゃあ。
何でマリ姉は…オレを好きになった?
それよりも…なんであの時オレにキスをした?
そんな疑問が浮かんでしまう。
はずなのに。
今はどうでもいいって思った。
マリ姉に抱きしめられて、好きだと言われて。
この瞬間がずっと続いて欲しいなんて願ってしまう。
不謹慎、かも知れない。
それでも、男だから。
ずっとこうしていたかった。
「マリ…姉…。」
この落ち着く感覚に瞼を閉じそうになる。
そのまま意識を沈めて、このまま寝てしまいそうに。
しかし。
マリ姉の行為により胸が、心臓が強く脈打つことにより寝るに寝られない。
女性に抱きしめられている状況で寝られるほどオレも経験があるなんてわけでもない。
体が、心が昂ぶってしまう。
しかしそれは。
マリ姉の方も同様らしかった。
よくあるファンタジーな物語に登場するような貝殻のビキニに包まれたマリ姉の胸から伝わる鼓動。
硬い貝殻越しとはいえそれは確実にオレの胸に届いている。
オレと同じよ
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