「レグルさん、掃除おわりましたよ。」
モップをしまいながら、オレこと黒崎ゆうたは言った。
「レグルさん、じゃねーだろーが!お父さんと呼べ!」
店内の数あるテーブルを台拭きで拭きながら大男のレグルさんはいった。
この世界、魔物と共存する世界に来て早3ヶ月と数日、オレはこの世界で暮らしている。
元の世界のありふれた日常ではなく、毎日が刺激的なこの世界。
向こうに残してきてしまった家族や友人が気にかかるが、今のオレはこの生活を気に入っていていた。
「それじゃあ、父上!」
「おっ!中々!」
「親父殿!」
「いいじゃねえか!」
「おやっさん!」
「そら、もう一押し!」
「お…父上!」
「戻った!?」
今のオレはこの人の養子という形でこの食事処ハンカチーフに住まわせてもらっている。
養子なのだから「お父さん」くらい呼んであげてもいいのだが…
その…ちょっと照れるというか……ね。
「それじゃあいいますよ!」
「おっしゃ!こい!」
息を大きく吸い込んだ。
「っっおと」
カランコロンッ
入り口の扉に付けられていた鈴が軽い音を響かせた。
「おじゃましまぁす。今日のミルク、お届けに参りましたぁ」
間の抜けた声にオレとレグルさんは止まった。
声のするほうを向く。
そこにいたのは、魔物。
きれいな髪をして、ちょっとたれ目なかわいらしさを感じさせる女性がそこにはいた。
頭にはまるで牛のような短い角、それと耳。下半身には蹄がついた足。
ひざやら腿やら露出の多い服から覗く肌にはこれまた牛のような白と黒の体毛。後ろには白く、垂れ下がっているしっぽ。
さらに、何より目を引いたのはその胸の大きさだ。人間に許された域を出たその巨乳はオレのいた世界でお目にかかれることはまずないだろうというほどだ。
圧倒的存在感……。
うん……すごく…よろしいです。
彼女は魔物、それもホルスタウロス。
この食事処ハンカチーフの目の前で牛乳屋を営んでいるラティ・オレオさん(オレより4歳年上)。
一見おっとりしている印象を受けるが、それでも目の前の牛乳屋「ミルミルオーレ」をたった一人で営んでいるお姉さん。
街の中で有名らしく彼女の売る牛乳は夫婦の間じゃかなりの人気を誇っているという話。
いやぁ…この世界にも牛乳ってあるんだねぇ…。
さらに有名なのは彼女、いまだに独り身でいるということだ。
街中の男!拍手しろ拍手!!ほら!そこ!歓声ちいせーぞ!!
皆さん彼女の胸には心よせているらしく彼女の店は大半の利用客が男性だ。
っとこれ以上の個人情報は言うもんじゃないな。
というか知らないし。
かくいうオレも少し気にはなっていたりはするが…。
「おう!ラティさんじゃねーか!毎度のことすまないな!」
レグルさんは笑って言った。
さっきまで馬鹿な会話をしていたからだろう、かなりいい笑顔してますよ。
「ほら、ユータ!ラティさんから牛乳貰って来い!」
「あ、はい」
オレは小走りでラティさんに駆け寄り、その手から牛乳を受け取る。
ちょんっと
少しだけラティさんの手が触れた。
「あっ////////」
「…?」
ラティさんは小さな声を上げると俯いてしまった…。よく見ると少し肌が朱に染まっている。
…風邪でもひいたのかな?
「そっそれじゃあお、おじゃましましたぁ!!」
おっとりとした印象とは裏腹に、脱兎のごとく向かいの店(兼自宅)に走り去っていってしまう彼女。
……気に障っちゃったかな?
ヒューと、不器用な口笛の音がオレの耳に届いた。
「ラティさんも青春してるな!おい!」
「?え?何がっすか?」
「いや、なんでもねえよ…」
「?」
レグルさんはそういって向こうの店、「ミルミルオーレ」を遠目に見た。
「いいよなぁ!ラティさん。」
「ええ、優しくって。」
「おっぱいでかくて!」
「意外としっかりしていて。」
「やわらかそうで!」
「時折、守ってあげたいなんて保護欲にかられますね。」
そういうとレグルさんは目を丸くしてオレを見た。
信じらんねぇ、みたいなことを言うかのような顔だ。
「お前、あの胸見て何にも思わねぇのか?」
「え?あ、胸はその…大きくてすごくいいと思いますけど/////」
「だよな!それでこそ男だ!」
「あんな規格外な胸を見たのは初めてですよ!」
「いいよなぁ、あんな大きくて…。」
レグルさん、涎垂れてます。
「急がねえと他の男にとられるのも時間の問題だぜ?」
「彼女が幸せならそれが一番ですよ。」
「……はあぁぁぁぁ!!」
レグルさんは大きなため息をつく。
あまりの大きさに部屋の隅に集まっていた埃が舞い上がるほどだ。
「えっ?何すか?そのため息。」
「いや、何でうちの息子なのにこうもにぶいかなぁ、なんてよぉ。」
「?」
「!ああ、そうだ!」
レグルさんは何か思いついたように厨房の奥へ入っていく。
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