恋とお前とオレとスキ 後編

「幼馴染は外せないな!!」
それは友人の一言。
オレのいた世界での、オレが通っていた高校での一時。
ある日の昼休みのことだった。
「やっぱりさ〜こう、幼馴染のお姉さんていうのはいいと思うんだよ!」
女子のいない、人気のない階段で男友達と集まって楽しく猥談。
高校生ならではの願望や憧れを曝け出して話し合っていた。
「幼馴染だって…!?だったらボクは年下だぁ!!」
「うわっ!すげー!勇ましい発言だなおい!」
「はっ!姉が一番だろ!」
「ええー…。」
「…何その反応。」
今思えば、というか常に思っていたけどオレ達はいったい何の話をしてたんだろう…。
どうしようもなく下らなくて、どうしようもない内容だけど。
それでも確かに楽しかったあの日常。
「それじゃあさ、シチュエーションなんてどうよ!」
「シチュエーション?」
「する前だったらどんな感じがいいかってことだぜ!」
「…病気で介護されてて…そのまま…なんてのは!」
「おお!いいねぇ!」
「病院でナースとか…憧れるよね!?」
「たいしていいとこじゃねーぞ、あそこは…。」
「クロは?」
「ん?」
友人の一人に声を掛けられてオレはそいつのほうを向いた。
「クロはなんかあこがれてるシチュエーションとかないのかよ?」
「オレは…そーだな…部屋で二人っきりとか?」
「何だよそれ、普通!」
「普通が良いんだよ!」
「で、そっからどう発展していくんだよ?」
「あー…そうだなー…。」
「そこで隣の部屋から喘ぎ声とか聞こえたらいんじゃね?」
「よくねーよ!ただ気まずいだけじゃねーか!」
そんなことを言いながら皆して笑っていた。
あの時はただ笑っていられてたけど。
それでも、もし今のオレにその質問をされたらオレは迷いなくこう答える。

―気まずいなんてもんじゃねーよ!!

何だよこの状況は!?
何でオレは興奮したエレーヌに押し倒されてるんだよ!?
まるでこれから一線越えるような雰囲気で!
やばいとしか言えねぇよ!
相変わらず響いてくるマーメイドの喘ぎ声。
そして目の前にはエレーヌ。
頬を赤く染め、息を荒くした女性がいる。
かけてやった学ランはオレを押し倒したときに脱げたのだろうか、エレーヌの姿はシジミみたいな貝殻ビキニ。
形がよくて意外と大きな胸が揺れる。
「…っ。」
オレの理性も揺れる。
男としての本能が燃える。
「ねぇ、ユウタ…。」
エレーヌの声。
ねだるような甘い声で呼ばれる。
「この声って…マスターの奥さんの声よね?」
「…あ、ああ。」
「ふふ、とっても…気持ちよさそうに喘いでいるわね…。」
「そう、だな…。」
「ねぇ…ユウタ…。」
エレーヌは身を寄せてきた。
下はベッド。
オレに逃げ場はなくエレーヌの体を体で受け止める形になる。
柔らかな胸がオレの胸板で形を変え、甘い香りがオレの鼻孔をくすぐった。
「どうしたんだよ、エレーヌ…。」
「ふふふ、ねぇ、ユウタ。

―あたし達も、しましょ…♪」

「っ!!」
その一言はとてつもなく甘い誘惑。
男にとって抗いがたい誘い。
気を抜けばすぐさま陥落させられる魅惑の言葉。
大抵の男なら堕ちるようなこのシチュエーション。
それでも、オレは。
抗わないといけなかった。
オレ自身のためにも―そしてエレーヌのためにも。
「エレーヌ…やめとけ。」
オレは言った。
エレーヌの肩を掴んで、言い聞かせるように。
「何でよ?」
「何でじゃねーよ。お前はこんな雰囲気のせいでどうでもいい男に抱かれるのか?」
「…。」
「オレみたいな男とするのは、嫌だろ?」
「…。」
これはオレからの優しさ。
エレーヌのような気さくでいい奴がオレみたいなどこの馬の骨ともわからない男とは釣り合わない。
普段から仲良く話している仲とはいえ、そこらへんはちゃんとわきまえてるつもりだ。
オレとエレーヌはただ仲良く話しているだけ。
そんな関係。
それ以上でなく、それ以下でもないと、わかっている。
それにエレーヌにはもっといい男が合う。
別世界の住人であるオレよりも、この世界の住人の男が。
「だから、やめろよ。オレみたいな好きでもない男としようとするのはさ。」
「馬鹿ね。」
エレーヌは言った。
静かに、だけどハッキリと。
オレの耳に口を寄せて。
「…何が?」
「あなたは本当に馬鹿よ。」
いつの間にか腕を後頭部へとまわされて。
より密着する形で。
彼女は言った。
「あたしがどうでもいい男にこんな姿を見せると思う?」
「…。」
「あたしが嫌いな男にここまで寄ったりすると思う?」
「…。」
「あたしの本心を知らないから、ユウタはそう言えるのよ。」
何も言えなかった。
確かにオレはエレーヌの本心を聞いたことはない。
それは怖かったから。
エレーヌがオレ以外の男を好きだったりするのが怖かったから。
だから今まで聞けずにい
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