中編

「そんじゃ、この部屋使ってね。」
お風呂からあがり、用意してもらった服に着替えて案内された部屋。
一人部屋にしては少し広い、置いてある家具の数が少ないところ。
中央に一人で寝るには大きなベッドがあり、その横には人が映し出される『てれび』とか言う板がありました。
反対側には鏡台があり、上には化粧道具のようなものがあります。
ここは…誰かの部屋でしょうか?
「ここしか空いてないんだ。ごめんね。」
「あ、いえ。この部屋は誰の部屋なんですか?」
「ここ?ここはオレらの両親の部屋。」
「ユウタ君のお父さんとお母さんの…?」
「そう。夫婦の部屋。」
その言葉を聞いただけで私の中の心臓が強く脈打ちました。
夫婦。
その言葉を聞いただけなのに体が自然と熱くなってきます。
隣のユウタ君を見れば頬をかいてそっぽを向いていました。
さっきのお風呂場でのことがまだ忘れられないのでしょうか、こちらを見ずに頬を掻いています。
耳が少し赤く染まっていました。
まるで恥ずかしがっているようにも見えます。
「それじゃ、おやすみ。」
「え、あ、おやすみなさい。」
ユウタ君はそそくさと部屋を出て、静かにドアを閉めました。
音をたてずに閉まるドア。
ドア越しで聞こえる、離れていってしまうユウタ君の足音。
少しだけ不安になりました。
「…寝ますか。」
誰かに言うわけでもなくただ一人呟きます。
一人の部屋でその言葉はむなしく響かずに消えました。
夫婦の部屋。
もともと二人部屋ですから私のような独り身の女性がいるのは不釣合いですね。
掛け布団をめくり、体を滑り込ませます。
人間の姿のまま。
この状態は普段よりも少し疲れますが今は仕方ありません。
泊めた女性がエキドナだったとわかったらただじゃすまないでしょうし。
ふぅと小さなため息にも似たものを出して瞼を下ろします。
このまま睡魔に身を任せて寝てしまいましょうか。
そう思っていても瞼の裏には映像が浮かびます。
あの踏切でユウタ君が飛び込み、私を助けてくれたこと。
そのまま手を引かれ、この家へ連れてきてもらったこと。
料理をするユウタ君の姿。…あと、ぐうたらするユウタ君のお姉さん。
風呂場で見た、私の服を畳んでくれていたこと。
私の体を見て、顔を真っ赤にしていたこと。
この部屋へ案内してくれたこと。
恥ずかしそうにそっぽを向きながら頬を掻いていたその姿。
…なんでしょうね私は。
目を閉じたらユウタ君のことばかり考えて。
これではまるで…恋をしているかのようじゃないですか…。
…恋、ですか。
…………………別のことを考えましょう。
ここはいったいどこなのか。
こんな国が今までにあったのか。
やはりこれは別の世界と考えるのが妥当でしょうか。
…別…世界ですか。
自分でもそうだとは思えませんが…もしそうだったとしたら。
ユウタ君が、別世界の人間であれば…そこらの猛者や英雄なんかと比べても遜色ありません。
むしろ勇者以上の逸材。王族よりさらに上の血。
そして…ユウタ君が私の旦那様になったら―

『ユウタ君、その今日も…。』
『今日もって…毎日でしょ。』
『すいません…でも…ユウタ君といると…。』
『…仕方ないな。ほら。』
『あぁ♪』
『今日は優しいのがいい?それとも激しいので?』
『ユウタ君のお好きな方で…♪』
『わかった。それじゃ…。』
『あぁん♪』

………………………………ありです!!!
とてもありですね!
ユウタ君は優しそうだし気配りなどもよくできていて私を蔑ろにしないでいてくれそうです。
ユウタ君と、私。
夜。ベッド。二人。恋人。夫婦。子供。子作り。愛。
『YES−YES枕』。
うふ…ふふふ…。
あ、涎が垂れてしまうところでした。
危ない危ない。
って、私は何を考えているのですか!?
そんなっユウタ君と私が…夫婦になるなど…。
ふ、夫婦に…。
「…夫婦、ですか。」
思えば考えたこともありませんでしたね。
私が自分で旦那様を見つけに行くなんてことも。
ずっと一人で旦那様が来るまで待ち続けなければいけなかったはずなのに。
あの難しいダンジョンを越えて来てくれた人と番になるエキドナとして、自身が番になる相手を探しに行くなど前代未聞。
ですが…。
「ユウタ、君…。」
そっと彼の名を呼びました。
それはただ呼んだだけなのに私の胸は締まります。
まるで心臓を握られているように。
でも…嫌な苦しさではありません。
むしろ…心地いい苦しさ。
苦しいのに心地いいなんて変なものなのですけどね。
「ユウタ…君…。」
もう一度彼の名を呼びます。
一人の部屋で、夫婦の部屋で呼ばれる青年の名。
不思議とその名を口にするたびに私の体は熱くなりました。
とても…いい気分ですね。
お酒で酔ったときのほろ酔い気分だとかそんな気分にも似た…いや、それ以上にとて
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