女王とあなたとオレと王 前編

どれくらい洞窟内を歩いていただろうか…。
時間にして約10分。
距離もそれなりに歩いていたとき、それは聞こえた。

ぺたぺたっ

なにか湿ったものがくっつくような音。
足音にも聞こえなくもないその音は明らかにオレこと黒崎ゆうたの背後から響いてきた。
…人か?
こんな洞窟に来る人なんていったいどんな用件があるのだろう。
…もしかして死体を隠すためなんてないよな。
音は徐々に近づく。
それもさっきよりかなり近くで。
意外と早いな…。これは…一応迎撃の構えをとっていた方がよさそうだ。
オレはそう思い足を引き、拳を構えた。
カウンターを狙った構え。
向かってくる敵に対して絶大な威力を誇るのもの。
相手が敵意あるようなら容赦せずに拳を叩き込む。
そのためにもオレは拳を限界まで引き、そのままとどまった。
音はすぐそこから聞こえる。
来たか…っ!
その音の正体を見ようと目を細めた。

「おや…?人…ですか?」

声。
それも女性のような高い透き通った声。
その声にオレは拳を下ろした。
敵意はなさそうだ。
その声の主を見る。
ローブのようなものを頭から被った彼女。
服は見えない。
ローブに包まれているから当たり前なのだが…むしろ隠すようにそのローブを纏っているかのように見受けられた。
紙袋を抱えるように持っていた。
中には赤い果実がたくさん詰まっている。
「貴方は…?」
「あ、どうも。黒崎ゆうたです。」
とりあえず自己紹介をする。
礼儀は大切にしないとね。
「黒崎…ゆうた…その黒髪黒目からするにジパング人ですね。」
「はぁ…。」
ジパング人…ではなくジャパニーズなんですけどね。
ジパングなんて随分と古い呼び名だし。
「ユウタ様はこのような場所へどうしたのですか?」
ユウタ様…なんだろう、くすぐったい響きだ。
様付けなんて手紙ぐらいだったしな。
「はぁ…実は…ここに洞窟があったからちょっと興味本位で入ってみました。」
とりあえず思いついたことを言った。
光に包まれて気がついたらここにましたなんて言えない。
言ったところで信じてはもらえないだろう。
不審がられて終わりだ。
「そうですか…ちょうどよかった。」
女性はローブの下で小さく笑った。
よくは見えなかったが微笑むように笑っていた。
「この先に私の女王様がいられるのです。」
女王…様…?
なんだそれ、今の世の中には聞かない言葉だぞ。
せいぜい世界史の教科書かゲームに出てくるぐらいだぞそれ。
はたまたどこかのゲームの中とか。
「外から訪れてくれる人は今までにいませんでした。それなので女王様もさぞかし退屈されておりますでしょう…どうかこのまま私と共に来て女王様の話相手になってもらえませんか?」
話…相手ね。
それくらいならいいかな。
ちょうどこの洞窟の奥まで行こうとしてたつもりだし。
これからすることもないわけだし。
ついでにここがどこだかわかるとありがたいし。
「いいですよ。」
「ありがとうございます。」
そうしてオレは彼女の後を付いていくことにした。

「荷物、持ちますよ。」
オレは女性の隣で手を出して言った。
さっきから重そうに抱えているその紙袋。
揺れに揺れて危ないったらありゃしない。
「いいえ、お客様に持たせるわけにはいけません。」
「いいから。」
半ばひったくるようにして彼女の荷物を取った。
おっと?意外と軽いな。
中には果物がはいっているからだろう、甘い香りがする。
「あ、ちょっと!ユウタ様!」
「いいから。女性に重いものは持たせていいわけないでしょ?」
お客様として扱いを受けるのだからせめてこれくらいはしないと。
男らしく女性には優しく接しないと。
前なんて「ゆうた、持て。」だったからな…。
あの暴君(双子の姉)…。
観念したのだろう、女性はため息をつく。
少し呆れているかのように。あきらめたように。
「優しいのですね。」
「どうでしょうね。」
優しいというよりはただ単に女の尻に敷かれやすいというところだろう。
今までだって散々だったし。
「それよりも…あなたの女王様ってどんな方なんですか?」
かなり気になっていたこと。
女王様っていうんだから女性なのは当たり前だろう。
いったいどんな性格なのか。いったいどんな人柄なのか。
どんな国を統べているのか。
気にかかることばかりだ。
「優しいお方ですよ。」
彼女は言った。
「従者の私にも優しく接してくれて、あの方ほど女王にふさわしい方はいないと思うくらいに。」
慕われているんだ。
悪い女王様じゃなさそうだ。少なくともオレのとこの暴君(双子の姉)とは違うと思ってよさそうだな。
「一国…とは言いがたい大きさのわが国です。いるのは私と女王様含めてまだ二人。」
「二人?」
二人だけの王国?小規模だな…。
没落した王族とか…だったりするのか?
「え
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