おっちょこちょいな先生

オレとあやかは再び先生の自宅へと赴いていた
目の前の御子柴先生は既にヘアバンドも何もなく、昨日見た犬っぽい姿を晒してる。心なしか尻尾の動きがぎこちない。そんな彼女は床で正座、対するあやかはソファで足を組み直す。
態度でかいなこの暴君。

「ねぇ、ももちん。今日一日どうだった?」
「ど、どうだったって?」
「尻尾とか耳とかなしに上手く授業できた?」
「う、うん。なんとか。黒崎さんのしてくれたヘアバンドもちょうどいいし、長めのスカートだから尻尾もあんまり目立たず隠せてたと思う」
「そうだね。見てるこっちもいつも通りだったよ。ゆうたの方はどうだった?」
「おおむねそんなとこ」

今日はこちらでも世界史の授業があったが皆御子柴先生の姿を怪訝に思うことなどなかった。むしろイメチェンだとかで騒ぎたてる始末。聞けば、職員室でも好評だったとか。
御子柴先生は照れ臭そうににへらと笑う。臀部から生えた尻尾を揺らしながらの笑みは何とも愛らしくて誰もが見惚れることだろう。



だが、反対にあやかは冷たい視線で見下ろしていた。



「そっか。なら、なんで靴まで変えてきたの?」
「えっ!?」

その言葉に思い出す。
そう言えば今日の御子柴先生、隠すためとはいえ関係のない靴も変えてきてたっけ。ヒールが少し高い、ちょっと大人なデザインだった。

「大人っぽくて皆に好評だったね。でも、それでまたずっこけてたよね。おかげで見てるこっちはひやひやしたよ」
「…あ、そっちもしてたんだ」

室内用の靴とは言え教室内だって段差はある。ヒールをひっかけ教材をばらまいたのはあやかのクラスでもやっていたようだ。

「何で?」
「イメージチェンジするなら徹底的にするべきかなって思って」
「ただでさえ慣れない格好になってるのにそれ以上に慣れない物履いてどうする気だったの?」
「そ、それは…」
「それで失敗を繰り返したいの?それともドジしたところを慰めてもらいたかった?」
「うっ…ぅ…」

容赦はないが、間違いもない。
靴のサイズは問題なかったはずだった。それはきちんと確認した。耳や尻尾、露出をできる限り隠せばいいだけなのにこればかりは余計だ。

「一つの事も満足にできないのにできないこと増やしてどうするの」

本来ならば褒められたかった点を逆に注意される。それは期待していた分痛いことだろう。
年上の女性が、それも教師が年下の生徒に注意を受けて、気づけば大きな瞳に涙を溜めていた。
あ、やばい。これ昨日の二の舞だ。

「でも、今日の授業良かったですよ」
「…うぇ?」

そこで前に出るのがオレの役目。
涙目での上目遣いでこちらを見上げる御子柴先生。元気なく垂れた耳や尻尾も相まって正直………守ってあげたくなる。そんな庇護欲そそる彼女へ視線を合わせるとオレはできる限り笑みを浮かべて言った。

「えぇ、いつも通りですがちゃんと皆が理解できるように細かく説明してくれてましたし、ほら、ルネサンスあたりの話なんて映画の話も交えてすごくわかりやすかったんですよ」
「ほ、本当?」
「本当ですよ。授業中だって皆喋らずに先生の話を聞いてたじゃないですか」

本当は興味津々に先生見てただけなんだけど。

「今回は調子に乗り過ぎちゃって空回りしたってだけで、それでも教師としてちゃんとしてましたよ。それに教えるのが上手いから他の科目も担当してほしいなーって皆言うくらいなんですし、とりあえずはいつもの靴に履きかえて明日の授業も頑張りましょう」
「わ、私、頑張れる、かな…?」
「今までだって頑張ってきたんでしょう?無理な時はオレとあやかが助けますし、あとはドジしないように気を付ければ十分ですよ。貴方は世界史の教師として生徒の誰もが認める御子柴先生でしょう?」

ぽんっと、自然と掌を御子柴先生の頭へと置く。耳の間をゆっくりと撫でまわし指先で耳の根元を擽っていた。

「え、えへ、えへへ〜♪」

頭を撫でると嬉しそうに笑いながら尻尾を揺らす。耳も立てながらびゅんびゅんと元気よく。
褒められるのが嬉しいのか、尻尾の動きがとても速い。何より蕩けた笑みも相まって筆舌しがたい庇護欲をそそられる。皆が皆守ってあげたいのも当然と思えるほど。
ただ、隣の暴君が良い顔をしていないのだが。

「私、明日も頑張るね」
「でも明日オレのクラスに世界史ありませんけど」
「えっ」
「明日もあるのはアタシのクラスだけど」
「あっ」





「それじゃあ今日は帰るから、またねももちん」
「また明日、先生」
「…二人とも、ちょっと待って」

そろそろ帰ろうと立ち上がったあやかとオレを御子柴先生はそのままの姿勢で呼びとめた。何かと思って振り返れば心配そうに見上げてくる。

「昨日はそのまま帰らせちゃったけど、二人ともご両親やご家族は?」
「え?共働
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