孤独と貴女とオレと不安 後編

「おい、クロ!帰りにゲーセン寄ってかね〜か?」
高校からの友達。

「というわけよ。だから頼む。宿題くれよ!」
中学からの親友。

「そうそう、それでいいんだよ。それじゃあ次は自分と組み手をしてみようか!」
空手の師匠。

「ゆうた、漫画読み終わったけど見る?」
オレ達の姉ちゃん。

「ははは、何言ってるんだ。」
オレ達の父親。

「ゆうた!いつも下着片付けなさいって言ってるでしょ!」
オレ達の母親。
そして

「ゆうた!アイス買ってきて!」
オレの双子の姉。

いつもの日常。
いつもの毎日。
変わらぬ退屈。
平和な日々。
ずっと続くと思っていた。
このまま高校を卒業して、大学へ出て、就職をして…。
このまま誰かを好きになって、誰かと結婚して、家庭をつくって…。
家庭のために仕事を頑張り、子供達が結婚して、孫ができて…。
それで最後は子供達と孫達に看取られて死んでいく…。
そんな人生送ると思ってた。
でも―

オレは目を覚ます。
寝ぼけた目で周りを見回そうとしてやめた。
さっきまでの出来事。
あまりにもリアルすぎる…いや、あれはリアルで当然。
あれが現実なんだから。
「起きられましたか?」
目の前から聞こえる優しい声。
その声は意識のなくなる直前まで聞いていたエリヴィラのもの。
一気に頭が冴えた。
そして自覚する。
今が現実であるということを。
もうあの世界には戻れないということを。
目を開けたその先にはエリヴィラの綺麗で整った顔があった。
…近くね?
「…あれ?」
体の様子がおかしいことに気づく。
温かい。
まるで抱きしめられてるかのように体が温かい。
「すいません。あの後気を失われたのでベッドに運ばせてもらいました。」
ああ、ここベッドね。
…いや、ベッドにしちゃなんか変な感覚なんだけど。
腹から背中へと何か太い綱みたいなものが隙間なく巻きついているというか。
見てみてばそこにあるのは太いもの。
表面には鱗。まるで蛇の体みたいな。
あ、これもしかしてエリヴィラの蛇の部分か?
…え?なんで巻かれてんの?
「こうした方が運びやすかったので…。」
ああ、なるほど。
今の自分の状況を見てみると、どうやらオレはエリヴィラに巻かれているらしい。
…あ!やば!
この状況思い切りエリヴィラのお望み通りじゃん!
オレの貞操が危ない!
しかしエリヴィラは何もしてくる気配はない。
襲ってくる気配はおろか、動こうとする意志も見せない。
「…どうしたのさ?この状況はお望みなんじゃなかった?」
「…すいません。」
いきなり謝ってきた。
とても真剣な声色で。今までの必死さや期待に満ちていたのとは随分はなれた声で。
わけがわからない。
エリヴィラに謝られるようなことは…されたはされたがここまで真剣に謝られるようなことだったか?
そこで不意に強く抱きしめられた。
いつの間にかオレの後頭部へとまわしていたエリヴィラの両手がオレを引き寄せ強く抱く。
オレはなすがまま彼女の胸へと顔を埋める形になる。
「えっ?ちょ!?エリヴィラ!?」
「すいません…。」
エリヴィラは再び謝った。
オレの頭を強く抱きしめて。
そして口を開く。
そこから発せられた言葉は謝罪の意がこめられたもの。
「ユウタ君がこの部屋へ来てくれたからとても嬉しくて…舞い上がってしまって…すいません。」
「…。」
「この世界とは別の世界から来たあなたにとっては未知の領域…混乱しないわけがありませんよね…。」
そりゃ…混乱はしたさ。
貴女が初対面で求婚してきたのなんか特に。
「これじゃあ…ただの迷惑ですよね…。」
自嘲気味に小さく笑う。
その声を聞いてなんとも言えなくなった。
迷惑だ、なんて言えるわけもない。
少し面食らっただけなんだから。
「体…震えていますね。」
言われてハッと気づいた。
抱きしめられているのに指先が小さく震えている。
「私が…怖いですか?」
「…。」
「この体勢は嫌ですか…?」
「…。」
「嫌ならば…すぐに解きましょう。でも少しだけ…ほんの少しだけでいいので…こうしていてもらえませんか…?」
「…怖くない。」
そこでオレは口を開いた。
「怖いから震えてるんじゃないんだ。…これからこの世界でどうやって生きていこうかわからなくて…ただ…不安なだけ。」
本当は怖い。
未知の世界に踏み込んでこれから先どうやって生きればいいのかわからなくて。
平穏な世界にいられなくて。
もう、二度とあの日常には戻れなくて。
―でも、それ以上に嫌なことがある。
目の前の女性が苦しんでいる。
ずっと一人で孤独に苦しんでいて、オレを求めている。
ここでオレが逃げ出せば彼女はまた一人。
そしてオレも一人だ。
でも、オレがこの女性と居続ければずっと二人。
互いに孤独じゃなくなるし、互いに不安でもなくなる。
だったら少し
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