「ユウタは魔法が使えるようになればいいのだがな」
昼食を終えデザートへと手を伸ばしながら仰ったのはレジーナ様だった。甘さたっぷりの生クリームをフォークで舐めとるユウタ様が視線を向ける。
「何で?」
「魔法が使えればより実践的な戦いもできる。ユウタも使えたところで弱くなることはないだろう?それに勇者は皆魔法が使える。お前もいずれは近しいことができるようになるが、だとしても今のうちに慣れておくことに越したことはない」
「でも魔力を生み出す器官が発達してないとか言われたんだけど」
「あら、それじゃあユウタは自分で魔法が使えないのね」
魔法、という言葉に食いついたのは魔物であるフィオナ様。身を乗り出してユウタ様へにっこりと笑いかけ片手を取った。
「それなら私から魔力をあげるわ」
「あげるって…そんなことできるの?」
「できるわよ。私のする魔物化だってある意味魔力の譲渡に近いことしてるわけだし」
そう言ってフィオナ様はちらりと視線をこちらへ向けた。
確かに私を魔物化して頂いた時に肌に絡みつくような濃密な魔力を感じたものだ。魔力を他人へ譲渡するとはあれとほぼ同じだろう。
「いい?魔力の譲渡にはね密接な接触が不可欠なの。掌を握る程度で渡せるのはほんのちょびっとだけなのよ。だから」
「だから?」
「だからもっと密な接触が不可欠なの。触れる肌の面積が増えればいいなんて簡単なものじゃないわ。それ以上に信頼関係も大切。知らない人相手にできないこともないけど、知り合ってた方がよりやりやすいでしょ」
「まぁ、そうだけど。それで、具体的には?」
「具体的に?それは勿論―」
単純に疑問を抱いて先を促すユウタ様に対してフィオナ様はどことなく興奮を抱いていた。
一瞬の静寂の後、意を決したフィオナ様は力強くその言葉を言い放つ。
「べろちゅーぐらいしなきゃ!」
「「…」」
ちょっと変わった拳を握って頬を染めて、それでもテーブルを叩いて堂々と言いきったフィオナ様。対するレジーナ様もユウタ様もどこか白けた空気で言葉はなし。
ああ、また馬鹿を言いだしたぞこの馬鹿、と視線で語るレジーナ様。
淫魔だもんね、リリムだもんね、もっとひどい女性もいるけど、と生暖かい視線を送るユウタ様。
私は御二方を見据えながらフィオナ様へと視線を戻す。
「…」
「…」
「むっ!何よ二人して疑ってるの?体力だって休憩しなきゃ戻らないし、そのためにご飯食べたり眠ったりするでしょ?魔力だってちょっとやそっとでどうこうできるものじゃないわ。仮にも他人に力を譲渡することが軽々しく行えるわけないじゃない!」
「…確かにそうですね」
その意見には頷ける。
魔法とは未知の領域がある。多くの国で多くの者が研究を行っているが不明瞭の部分が未だに多すぎるし、似通う部分はあれ国ごとに定義はばらついている。
何より、行うのは力の譲渡。それも自身の力を他者へと渡す行為だ。軽々しくできることではないし、体への負担がないとも言い切れない。
「私は魔物よ?魔力の事に関してならレジーナ以上にわかってるわ!」
「馬鹿者。それでユウタが魔物化されては堪ったものではないわ」
「…ならば、僭越ながら私の出番ですね」
私は席を立ち名乗りを上げる。
こういう時こそメイドの真価を見せつけるとき。御主人様が望むのならば体どころか命すら差し出すもの。御主人様に危険が及ぶのならば身を挺して守るのがメイドの義務。
そして御主人様の貞操を守るのもまた私の務めでふぇへへへ…。
「い、いやでもさ、そういうのはちょっとよろしくないじゃん。そういうことは軽々しくやるべきじゃないっていうか、その、ね?」
しかし、肝心のユウタ様は尻込みしている様子だった。照れて、困って、だけども内心嫌ではなくて。そんな感情を抱き笑みを浮かべる姿にもしやと思う。
だが、言わない。御主人様の尊厳を傷つける真似をメイドがするわけがない。ユウタ様は大して気にも留めぬだろうが。
しかし、フィオナ様の目が光っていた。
そして、私も涎が垂れていた。
ただ、その事実を察していたのかレジーナ様だけ変化が特になかった。
皆ユウタ様をよく知る者。初対面ならまだしも今の仕草や言葉で事実を察せぬほどに鈍くはなかった。
「…ではなおさら私の出番ですよ、ユウタ様。メイド相手に何を気遣う必要がありましょうか。ようやく私をメイドらしく御使いいただける機会に恵まれたのです、どうぞ、心行くまで私の唇を獣の如く貪ってください」
「涎っ!涎すごい垂れてんるんだけどっ!それに軽々しくやるもんじゃないって言ったじゃん!」
「…御安心下さい。メイドである私が軽々しく淫らな行為をするはずもありません。私の身は全て純潔、唇すらも異性に触れさせたことはありません」
「なおさらできないか
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