お手玉と貴方とオレとお遊び

「ちゃんと上手になってるからまた来てねぇ?お姉さんとのお約束ぅ」
「うん、約束するよ!」
「それじゃあ、指切りしましょ」
「うん!」

痛い痛いと泣き喚いていた気がした。
頭がとても痛くて目の前が真っ赤に染まっていた。
それはきっと血であって、とても痛かった記憶が薄らと残っている。つまるところ思い出すのも難しいほど昔の事だったんだろう。
だが、その跡は今でも頭に残っている。どこでも打ち付け傷だらけでどこの跡だか覚えてないけど。



―でもそれはとても楽しい出来事で―だけど色褪せて思い出せない程に昔の事だった。










しゃんと、音がした。



「んあ?」

起き上がっていく意識にどうやら自分が寝ていたことを知る。時計を探すがここらにはない。仕方なく上で輝く太陽の位置と寝ころんでいた縁側の影を見比べるとどうやらそれほど時間は経ってないらしかった。

「くぁ」

欠伸をしながら縁側で体を伸ばす。まるで猫のような姿勢をとると骨が乾いた音をたてた。
ここは父親の実家の山奥の家だった。周りを山に囲まれて都会の喧騒も人々の騒がしさも全くない、どがつくほどの田舎の一軒家だ。
オレこと黒崎ゆうたは久しぶりの実家訪問にとくにすることもなくだらけていた。たまには勉強も忘れてだらりとするのも悪くない。そう思ってまた大きく欠伸をした、その時だった。



しゃんっと、音がした。



「……あん?」

流石に二度も聞こえれば嫌でも耳につく。
どこかで聞いたことのある様な、懐かしい音。それと同時に思い出すのは楽しかったことだった。

「…何だっけ?」

突然響く音もそうだが突然思い出した感情に首をかしげる。
もしかしたら先ほど眠っていた時に見た夢に関係するのだろうか。あの音のせいで何かを思い出しかけているのだろうか。

「…あー………」

だがやはり何の音かは思い出せない。
まぁ、どうせすぐに気にならなくなる。そう考えてオレは縁側を去ろうとしたその時。



また、音がした。



今度ははっきりとオレの耳に届くように。
鈴のような金属的な音ではない。まるで粒のプラスチックを擦り合わせるような音だ。楽器か、おもちゃがたてる音に近かった。
なんだと思って振り返るが広がっているのは幼いころから眺めていた庭先だ。ただっぴろく開けた土地と目前に広がる山々だけ。
どこから音がしたかわからない。これじゃあ探すこともできないし仕方ないな。そう思うと。



また、した。



まるでオレを誘うように音は響く。感覚は短くなるが姿も形も目に見えない。

「……んーっ」

再び体を伸ばしたオレは下に置かれたサンダルに足をつっこんだ。
たまには家事も勉強も忘れて歩き回るのもいいだろう。子供みたく駆けずり回りたいときもある。何気ない公園や廃屋探検だってしたいお年頃。湧き出す好奇心はまだまだ押さえ込めそうにない。

「ちょっと出かけてくるねー」

「はーい」と返事が聞こえたのを確認するとオレは駆けだした。音は変わらず響きわたっていた。















子供の頃の記憶とは当てにならないものだ。
あのころは並ぶ木々が高すぎて、ざわめく葉が恐ろしかった。日陰が怖く、闇が嫌いだった。

それでも好奇心は抑えきれないのが子供と言うもの。

何度親に怒られても、何度おばあちゃんに教えられても、それでも尽きぬ好奇心のまま動いてしまうのが子供というものである。
世話をしてくれる龍姫姉、呑兵衛だけどしっかり躾けてくれた玉藻姐、それから怒ると一番怖いおじいちゃん。皆に心配されて怒られて、泣き喚いたことも沢山あった。かけた苦労を思い返すと今では申し訳なく思う。だが、その分沢山の発見もあった―はずだった。

「…なんだったっけ」

音に誘われるまま山に入りある程度登って足を止める。
元々ここらは庭のようなもの。幼いころから駆けずり回って木々の枝をアスレチック代わりに遊んでいた。おかげで方向感覚もばっちりで迷うことなどまったくない。

だが、何があったのか思い出せない。

方向にして実家から北西。大木と言えるほど太い幹が立ち並ぶ森の中でオレは頭を掻いていた。
音のする方へと来てみたが肝心の音がもう聞こえない。あたりを見渡すがそもそも見えていないのだからわからない。

「……仕方ないか」

当てもないのだから当然だ。いつものように口癖を呟きながらオレは自ら来た道を振り返る。さっさと帰って家事の手伝いでもしようかと帰り道を見た。



布に包まれた何かが落ちていた。



「………んん?」

来るときにはなかった場所に落ちている。動物が通った気配も音もないというのにだ。
訝しげに思いながら近づきそれを眺めると群青色の布に包まれた手のひら大の塊だった。
それは―見覚えがある。


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