奉仕と貴方とオレと本心

高校三年生ともなれば毎日が慌ただしいものだ。
日々朝からある学校の課外に出ては授業を受け、放課後にもある課外に出席しては帰ってから赤本を開く。机に向かって勉強を繰り返し、とれる休憩はごくわずかな物。それが大体の高校三年生の生活であり、受験生というものだ。
だが、両親が仕事で不在のうちではそうもいかない。登校の二時間前から起きては洗濯、料理、弁当作りに勤しんで帰ってきたら夕食、風呂掃除、洗濯ものの取り込みとやることは多々ある。そんな忙しい毎日では勉強だってまともにできるわけがない。
そんなオレの事を心配してか、ある時父親がお手伝いさんを雇ってくれた。



メイド服姿の『セルヴィス』さん。



特徴的な藍色の長髪に、滑らかだが青白い肌。血が通っていないのではないかと心配になるほど青く、だからと言って不健康なほど痩せているわけではない。
メイド服という厚手の生地でも隠せない見事な胸の膨らみにすらりとした腹部、スカートに隠れながらも艶めかしさを醸し出す臀部に伸びた両足。切れ長で大きな瞳にすっと通った鼻筋。ふっくらとした色っぽい唇に凛々しい眉。日本人離れした顔立ちだが親しみある微笑み浮かべたその容姿は誰もが美女というだろう。
ただ、なぜか若干湿っぽい。服や体が濡れているのではないが時折肌が濡れたように光っている。近くに寄れば湿り気を感じることもある。その湿気のせいか、時折背筋にぞっとした悪寒が走ることもしばしばあった。
まるで人ではない化け物のような、人間の姿に押し込めた人外の存在感。時折舐めるように向ける視線に何度鳥肌が立ったことか。もしかしたら食べられるのではないか、そんな不安を抱くことも多々あった。
だが、慣れてしまえば彼女は優秀でよくできたメイドさんだった。
ただ、よくできたメイドではあっても完璧とはいいがたい。





その理由の一つが―彼女の視線だった。





「ではこちらのスプーンをお使いください」

もう日常と化したある一幕。それは夕食を終えた時の事。
セルヴィスさんが手渡してきたのは銀色で細いシンプルな形状のスプーン。ただ、うちにあるものとはちょっと違う。ならこれは元から彼女が持っていたものだろうか。

「あ、ありがと。それじゃあ頂きます」
「…」

そうして食べ始めるのだが一つおかしなことがある。もういつもの事だが決して慣れるようなことではない。
すぐ隣に立つセルヴィスさんはいつもオレが食べる様子をじっと見つめていた。デザートを掬って、口へ運び唇へ触れる。その一動作を彼女はすぐ隣で穴が開くほどに見つめている。見つめすぎて睨んでいるようにも見えてしまう。
だが、隣にいるオレの双子の姉―黒崎あやかには目もくれない。うちにあったスプーンを使いながら食べている様子には反応せずどうでもいいと言わんばかりに見ていない。二つの瞳はただひたすらにオレだけを見据えていた。

「……あんた何見てんの?」
「失礼しました。ユウタ様のお好みに合う味付けだったか不安だったもので」
「は?あたしは?」
「アヤカ様のご注文には全力で対応させて頂きました。完璧だと思うのですが」
「まぁ、別に悪くないけど。でもなんで不安だからってそんなにゆうたを見てるの?」
「ユウタ様はそういったことはあまり言わない方ですので表情から読み取った方が手っ取り早いと思いまして」
「オレの事なら平気だよ。普通に美味しから大丈夫」
「それはなによりでございました」

オレの言葉と訝しげな視線を送るあやかに平然と言葉を返す。だが、二つの瞳は相変わらずオレだけを捕らえていた。
結局のところセルヴィスさんは先に食べ終わったあやかには一瞥することもなくオレだけを見続けていた。



それが、いつものこと。



他にも……たとえば風呂の時。





体を洗い終え湯に浸かり、さぁ出ようかと思って戸を開けようとするといつもその先にセルヴィスさんがいる。オレの出るタイミングが最初からわかっていた、というわけではない。彼女はただ単に脱衣所で待っているからだ。

「お体の方を」
「いや、拭いてるからいいよ」
「……なら、お召し物を」

そう言ってセルヴィスさんはいつもオレに下着と寝巻を差し出してくる。だが、オレは風呂から上がったばかりでバスタオルを巻いた姿のままだ。
それでも一切の感情を表にせず彼女はただ微笑み待ち構えている。ただ、うっすらと浮かんだ笑みと共に向けられた二つの瞳がじっとこっちへ向けられているのは恥ずかしいものがある。

「ありがと。着替えるから出ててくれない?」

差し出された下着と寝巻を受け取ろうと手を伸ばす。
が、いつも渡してもらえない。それよりも早く彼女の手は逃げていく。そのせいでオレの手は空中をただ掴むだけだった。

「…セルヴィスさん?」
「御着替えのご
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