鍛錬場内で向かい合って並ぶ。その間は私でも大股三歩ほどの距離が開いており、剣ももちろん拳も足も届かない位置だ。
私はゆっくりと腰を下げ片手の平をユウタさんへと向ける。もう片手を腰に添えいつでも飛び込める体勢をとった。
対してユウタさんは大きく足を前へ出す。右拳を脇に添え左拳を顔の位置で固定する。
初めて私と戦ったときと同じ構えだ。あれに私は一瞬で敗北したことを今でもよく覚えている。ならきっとまた一瞬の勝負にでてくることだろう。
「レジーナ、宣言頼むよ」
「…お前本当に私のことをなんだと思っているんだ。一国の王女に頼み込むことがどれだけのことかわかっているのか?」
「でもこういうことはレジーナの方が専門的じゃないの?レジーナだから頼みたいんだよ」
「…お前という奴はいやらしい頼み方をする。本当なら今の頼み事どころか普段の行いで牢屋にぶち込まれてもおかしくはないんだぞ?」
「あら、本当に牢屋に入れるなら私がもらっていくわよ?」
「貴様は黙っていろ。いいだろう、特別に私直々にやってやる。ありがたく思うんだな」
「はいはい」
一つ咳払いをするとレジーナ様は私達に向けて宣言する。
「これより黒崎ユウタ対リチェーチ・ガルディエータの試合を執り行う!」
凛とした声色は聞いているだけでも背筋が伸びてしまう。鍛錬場内は緊張感で包まれ、私もユウタさんも自然と集中力を高めていく。
「魔法の使用は禁止とする。それ以外なら何をしてもかまわん。互いに全力を尽くせ」
たった四人しかいないとはいえいるのはこの王国のトップ、魔界の頂点、そして私に敗北を与えてくれたユウタさん。護衛部隊の隊長なんて自分がここにいることが場違いな気がするが今この時が私の待ち望んだこと。私が求めていたことだ。
―だが、以前の試合では開始直後からの記憶がない。
何をされたのかも理解する前に私は倒された。魔法を使うことができないユウタさんにだ。
つまるところそれは試合開始直後を狙われたということに違いない。魔法を使わず、私を一瞬で気絶まで追いやる術を持っているということに他ならない。
そして、レジーナ様の声が鍛錬場内に響きわたった。
「―はじめっ!!」
―刹那、目の前にユウタさんがいた。
「っ!!」
私でも大股三歩ほどの距離。剣は振っても届かず、拳や足も当然。大きく踏み込んだところで同じ事だ。
だがそれをユウタさんは一瞬で、たった一歩で詰めてきた。脇に引き絞った拳を開き、私の顎へと向かって一直線につきだしてくる。
これだ!
初めての試合の時にはこれに意識をとられた。間合いの外からいきなり飛来され、受ける動作すら入らせず無防備に打ち抜かれる。普通に考えてこの距離を詰められるなんて思えず、対応なんてできるはずがない。
やっぱりと理解する。
これだけの事ができる人間がただ弱いはずがない。
私が負けたことはただの偶然のはずがない。
全ては当然のことだった。
「ふっ!」
私は横へ飛び込むことで何とか避ける。流石に二度も同じ技を食らうわけにはいかない。
見れば、ユウタさんのいたところだけ槌を振り下ろしたように窪んでいる。強く踏み込んだ為か靴の形をしっかりと刻みつけながら。
どんな脚力をしているんだ。
体勢を立て直して見据え直すとユウタさんは驚いたような表情を浮かべていた。
「避けないで欲しかったな」
「一度それに痛い目にあってますから」
「師匠に試合用にって叩き込まれた一撃必殺の技だったからね。実力潰しの技なんだよ。まぁ、これに限らず空手は一撃必殺が極意なんだけどさ。でも通じないとなると…こりゃ苦戦必須かな」
「ご冗談を」
苦戦を強いられるのはユウタさんではなく私だというのに。
何でもできそうな魔物の体。人間以上の力や強度を持っているというのに不安が募る。今の一撃は実力潰しだといったがそんなことができる時点でかなりの実力を隠し持っていると理解できる。
やっぱり強い。その事実を噛み締めると握った拳が歓喜に震える。
これこそ私の求めていた刺激。
これが私の望んでいたものだ。
「改めて、行きますよユウタさん!!」
今度はこちらの攻撃。
一気に駆け寄ると私は連続して攻撃を叩き込んだ。
肘を突出し脇腹を狙う―しかし、体を逸らして避けられる。
右腕で左腕を抑え込み左拳を叩き込む―だが、すり抜けられた左腕に抑えられる。
左膝を鳩尾に打ち込む―ところが、右肘に叩き落される。
「はぁっ!」
一気に大ぶりの蹴りを叩き込む。
「っ!」
それでも、ユウタさんも同じく蹴りを叩き込んできた。
魔物となった私の攻撃にことごとく反応してくる反射神経と反応速度。攻撃一つも撃ち漏らさずに応対する刹那の判断力と繊細な技術。レジーナ様が認めるのも当然な実力だ。
なら―今度は
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