冬が近い。
吹き付ける空気が肌を刺すほど冷たくなり、同時に枯れた木の葉を巻き上げていく。風に揺れる木の葉は乾いた音を響かせて時折砂埃まで巻き上げた。
私は一人森の中で空を見上げる。手にしているのは先ほど捕らえたウサギの肉。血抜きをすませ冬の備蓄にするものだ。
あとはこれを火でやくなり干すなりすればいいのだが今の私にはまた別の問題があった。
「…」
はぁっと吐き出した息が真っ白に染まり霧散していく。両手を擦りあわせても紛れぬ寒さに指先がかじかみ、うさぎの肉を持っている感覚すら消え失せてそのうち落としてしまいそうだ。早々に今の問題を解決せねば冬を越せない。
というのも今私は新しい寝床を探していた。
寝床として使っていた洞窟がつい先日崩れてしまった。ここ最近になって小規模の地震が起きたことが原因だ。森にとっては倒木などの被害は出ていなかったというのに私の寝床には甚大な被害を出してくれたというわけだ。
「…はぁ」
両手を暖めるように息を吐きかける。だが暖かいと感じるのは一瞬ですぐさま凍えるような冷たさに包まれる。早いところ別の寝床を探さないとこれは命にかかわることだ。
洞窟を見つけたら中に何も居ないことを確認する。身を横たえ眠るために乾いた枯れ葉を探す。入り口には葉や草を編んだカーテンをつけて寒さ対策は万全だ。
だがそれも全てが見つかればの話。
都合良く私の入れる洞窟はそうないし、あったとしても熊や他の獣がいる。それにこの時期では枯れ葉もあまり見かけないし、草や葉を編み込むには時間がかかりすぎる。獣の毛皮という手段もあるが綺麗に毛皮をはがせるほど私は器用ではない。
「…っ」
ふと思い出す。
そういえば狩りをしている最中に小屋を見かけたことがあった。人間が住めるような大きなそれなら寝床の心配も防寒具を作る手間も必要ないだろう。そこに住み込めば今回の越冬も幾分か楽になるだろう。
そう結論づけると私はすぐさま木の上に上り、枝から枝へとかけだしていくのだった。
目的のものはすぐに見つかった。川の近く、木々の開けた広場の中央、小屋の側の土が柔らかく掘り返され、つい最近まで何かを栽培していたように見える。明らかに人間の手が加わった跡だ。もしかしたら住んでいるかもしれない。そうだったとしても私には関係ないのだが。
「…」
ドアに手をかけると鍵がかかっていた。ドアの間に鎌を突き刺し、下へと下げるとたやすく切り裂ける。開いて小屋の中へと足を進めると小屋の中央部、テーブルの側にたつ人間の姿が目に映った。
私と近い背丈で黒髪、黒目、黒服をまとった一人の男。人間は私の姿を見ると黒色の目を見開き、すぐさま手にしていた皿を置いて睨みつけてきた。
「誰だっ!?」
両手を拳にし、こちらに敵対する構えをとる人間。どうやら私を撃退するつもりらしい。繊細かつ鋭敏な警戒とともに明確な敵意をとばしてくる。肌に感じる雰囲気は獣と違ってぴりぴりする。結構な実力者らしい。
だが私には関係ない。必要なのは雨風を凌げ、冬場の寒さを緩和できる寝床だけなのだから。
「…!」
あたりを見渡し奥へと進むと開かれたドアの向こうにベッドが見えた。
あれだ。あれが私が求めていたものだ。
すぐにそこへと歩いていき、寝ころんだ。
「〜っ…」
「…いや待て待て待て待て!!」
人間に肩を掴まれるのだが関係ない。手を振り払って毛布を抱きしめ丸くなる。草で編んだものよりもずっと暖かな感触に私は顔を擦り付けた。
「いきなり人の家に勝手には言ってきてなんだよ一体!どういうつもりだよ!!」
「…」
「なんか言えよ!」
怒鳴り散らしてくる人間がうるさい。が、この際仕方ないとあきらめるしかない。こんないい場所を見つけてしまってはもう二度と洞窟暮らしはごめんだ。これなら冬場だけでなく普段からも寝床として使えることだろう。
何度も体を揺らされる。いい加減鬱陶しくなってきた。鎌を突き立て脅してやろうか。だがこの人間の先ほどの雰囲気、それなりの実力を備えているように思える。脅しが通用するとは思えない。
なのでこのまま眠ることにした。何度も体を揺らして怒鳴るが応じない姿を見て人間はようやく手を離す。
「…何だよ一体」
疲れたようにため息をつく人間を横目で確認すると私は瞼をおろすのだった。
冬は寒い。
「…」
ベッドに入ってからしばらくたつが私はあまりの寒さに瞼を空けてしまう。
いくら布製のベッドが植物で作ったものよりも上等な感触をもたらしてくれるとはいえ、冬場の冷たさを和らげてくれるほど万能ではない。自分の体温で暖まったのは一部だけ。手足を伸ばすと容易く熱を奪われてしまう。
何か暖まるものはないか―そう思ってあたりを見渡すと目にとまったのは寝ころんだ人間
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