「さようならー」
生徒たちの声が教室に響いた。
オレはすぐさまカバンを背負い、机の中に忘れ物がないかチェックして席を立つ。
「おいおい、クロ」
「ん?」
呼ばれた声にオレは―黒崎ゆうた―は振り返る。
「帰りにゲーセンよってかね〜か?」
友人はそう言い、オレにポケットから取り出した財布を見せた。
「あ〜悪い、今日用事があるんだよ」
本当は、嘘だ。何もない。
何もないけど行きたいともいうわけではない…
「なんだよ、お前最近付き合い悪いぜ?」
「わりわり、埋め合わせはするからさ」
そういい残してオレは教室から逃げるように出て行った。
友達が嫌いというわけでもない。騒がしいのが苦手というわけでもない。
それでもなんというか時折感じる気まずさが嫌いなんだ。
きっとそうだ。それいがいにはない。
オレは自転車に跨り、帰り道をゆっくりとたどりながら自分に言い聞かせた。
退屈な日常、つまらぬ毎日、無駄に過ぎる時間の中で時折オレはかんじてしまう。
人間関係に感じる息苦しさを。
人生に感じる刺激のなさを。
日々刺激がほしいと願っても何のしげきもない。
友達といても気まずさが募る。
繰り返しの日常はきらいだ。だが好きなものもある。
気まずさは感じるけど友達は好きだ。
それと、家族が好きだ。
親二人、姉一人、そして珍しい男女の双子の、オレともう一人の姉。
そいつらのおかげで、こんな日常でも耐えていける。
……なんて、オレは中年のサラリーマンみたいだな、と苦笑した。
踏み切りに差し掛かる。
向こうまではかなり長い。
距離にして約25メートルといったところだろうか…
その踏切を真ん中まで進んだそのときだった。
パァァァァン!!
「!!」
耳をつんざきそうなくらいに大きい電車の音!
それから、目も開けていられないようなとてつもない光!
踏み切りは下がっていなかった!
電車がくるはずないのに!
これはやばい、早く逃げないと!
そう思っても、足は地面に縫い付けられたかのようにうごかない。
光はもう目の前まで迫っている!
そして…
パァァァァァァァァァン!!
目の前が光に包まれた…
何も感じない…
電車のぶつかる痛みも衝撃も何も感じない…
何が起きているのかもわからない…
それでも、ひとつわかったのは…
こんな意味のわからない死を受け入れている自分が、
ここにいる、ということだった…
そしてオレは目を覚ます。
いつも朝、眠りから覚めるかのようにゆっくりと。
ゆっくりと瞼を開けて、確認する。
自分が生きているのか。
ここがどこなのか。
そして、オレは…
オレは……
「……えっ? ここ、どこだ?」
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