求める強さ

雲一つすら浮かんでいない、突き抜けるような青空の下。差し込む日の光が突き刺さる様な真冬の冷たさを和らげる。そんな中を私は白い息を吐き出しながら両手を擦り合わせて王宮内を見回っていた。
毎日見ている同じ王宮内の装飾。特にこれといった面白味のない見慣れた廊下を歩きながら今日の分の仕事をする。仕事と言ってもただの見回りだけなのだが。

「はぁ…っ」

冬の風から温めるように両手を擦り合わせ息を吹きかける。それでも容赦ない冷たさは私の肌から熱を奪って感覚を鈍らせていく。

「温かいもの食べたいなぁ…」

くぅっと切なく鳴くお腹に両手をあててみるが空腹は誤魔化しきれない。きっとそろそろ昼食時。それならこのまま休憩に入ってしまおうか。王宮の食堂にでも行こうかそれとも城下町で食べようか。でも城下町のレストランは大抵食べ終えてしまったし…。

「食堂も最近は新しいメニューないしなぁ…」

どこで食事をとろうかと考えながら歩いていると目の前の曲がり角からある人が出てきた。

「あ!」

私よりも頭半分ほど低い身長で体の線のわかりにくい服を着た、特徴的な黒い髪の人物。日の光を艶やかに反射する癖のあるそれはこの王国内ではまず見られない珍しいもの。さらにはその色に合わせたものなのか纏っているのは同じ色をした黒い布地の服。堅めの生地を使って作られたその服は黄金のボタンがつけられかなりの高級感が漂ってくる。何よりも特徴的なのは私へ向いた二つの瞳。髪の毛よりも服よりもずっと濃くて黒い色をした瞳はまるで明かりのない新月の夜をはめ込んだような闇色であり見つめ続けると吸い込まれそうな不思議な感覚に陥る。
それが彼という人間。
それが―

「あ、ユウタさん!」
「や。リチェーチ」



―黒崎ユウタという私に敗北を与えてくれた存在だった。



普段着ている、背中に十字架を背負ったデザインの制服と違う私服姿。片手には見慣れた荷物を持っている。どうやら今日はお仕事はなしなのだろうか。

「制服姿じゃないなんて珍しいですね!」
「こっちも制服なんだけどね。今日は休日だからさ。リチェーチは見回り?」
「はい!でも何もなくて退屈なものですけどね…」
「平和ってことでいいじゃん」

そんなことを話しながらユウタさんは私の隣並び歩き始めた。
ユウタさんと言えばこの王国で戦闘狂と歌われる王女様『レジーナ・ヴィルジニテ・ディユシエロ』様をたった一人で護衛している人だ。何でもあるときレジーナ様のお遊びで気に入られたのが原因だとかで無理矢理王族護衛という役職についたとか。だが、騎士団のトップである騎士団長すら適わないと言う実力者を一人で護衛するのだから柔らかな雰囲気とは逆にかなりの実力を秘めていることだろう。

事実、私はこの人相手に手も足も出すことはできなかったのだから。

「ん?三つ編み続けてるんだ」
「はい!これだと纏まって大分動きやすいです!」
「じゃ、もう片方もやればいいのに…」

私はユウタさんに教わり、編んだ片側の三つ編みを見せた。
私の知らないことをいろいろと知っていて、私のできないことをやってのける一人の男性。その素性は別世界の人間というのだから納得してしまう。住まう世界が今まで違っていた人間だ、私ができることでも彼はできないこともあり、その逆もまたたくさんある。
とても興味深く、それ故彼の傍は楽しい。
隣で並んで歩いていると手に持った荷物が揺れる。その度ふわりと漂ってくるのは空腹を刺激する良い香り。お腹が鳴りそうなのを我慢するがそれは間違いなくこの空腹を満たしてくれるものだろう。思わず口の端から涎が垂れそうになる。
ごくり、と喉がなった。

「ユウタさん…それは今日の分ですか?」
「ああ、そう。差し入れだよ。食べる?」
「はい!いただきますっ!」
「んじゃ、えっと…どこがいいかな」
「あっちの木陰なんて人目につかなくてバレにくいですよ!」
「バレにくいって…見回りがそんなこといっていいのか」

実際のところ護衛部隊の隊長と言っても普段私の仕事は王宮内の見回りと部隊の鍛錬だけだ。緊急時には先頭に立つことや殿をつとめることこそ私達の義務だがこういった平和時には退屈で退屈で詰まらぬ仕事でもある。
だから、隊長であってもこうしてお昼休みという名目の休憩をしても誰も困ることはない。しばらく職場から離れたところで問題なんて起きもしないのだ。

「ほら、行きましょう!」
「あ、ちょっと…仕方ないな」

はやる気持ちを抑えることもせず私はユウタさんの背中を押す。私よりも背丈はわずかに小さいのに肩幅は広く逞しい。体の線はわかりにくいがきっと細いことだろう。それでも男性らしい体つきだ。このどこでどうやって力が生まれるのか不思議で不思議でたまらない。
木陰の下についた私達は草の絨毯の上
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