すずしろさんがお風呂か等あがった後、オレもまた風呂に入ってあがっていた。寝間着用に持っている黒地の浴衣を羽織り、袖を通し灰色の帯を巻きながら考える。
―おかしい。
流石にオレも違和感を抱かずにはいられない。何が、というとはっきりとはいえないがそれでもやはりおかしいと感じてしてしまう。
どうして今日に限ってこんな目にあっているのか。どうして結界の範囲は徐々に縮んできているのか。どうして閉じこめられているのはオレなのか。
考えればきりがない。そもそも理解すら及ばないこともある。頭を悩ませたところで解決策なんて思いつくはずもなく、これでは手も足も出ない。
…仕方ないか。
考えるのをあきらめて部屋に戻るとすずしろさんが座っていた。蛇の体はそれなりの広さのある部屋に横たわり、灯籠の明かりに白く照らし出されていた。夜の闇の中真っ白に輝くその姿はとても神秘的で思わずため息が漏れる。
だが、一つ不可解なことがある。
なぜ、側には布団が敷かれているのだろうか。
なぜ、布団の上には枕が二つあるのだろうか。
なぜ、すずしろさんは襦袢姿なのだろうか。
普段の真っ白な着物とはまた違う露出の少ない襦袢姿。だがその布地は薄くよく見れば肌の色が透けて見える。襦袢自体下着のようなものなのだからその下は何もつけていない。
「お待ちしておりましたよ、ゆうたさん」
「すずしろさん…?」
「もう夜も遅いでしょう?僭越ながらお布団の準備をさせてもらいました」
「…なら、なぜ枕が二つあるのでしょうか」
「布団が一つしかありませんでしたからね」
「枕もオレ用の一つしかなかったはずでしたが…」
「枕は持参したものです」
きっと街へ行った時に自宅へと寄って持ってきたのだろう。だが、なぜわざわざ枕を自宅から持ってきたのか。そこまでしてくれるのなら助けを呼んできてくれてもよかったというのに。
枕が二つ。布団が一つ。そしてここにいるのはオレとすずしろさんの二人だけ。それが何を意味しているのか分からないほどオレも鈍くはない。
蛇の体で這いずるようにすずしろさんはオレの隣へすり寄ってきた。
「夜は長いものですし、蝋燭代も馬鹿になりません。早いところお休みになりませんか?」
そう言いながら向けてくる視線には熱が込められている。潤んだ瞳、ほんのりと朱に染まった頬、艶やかな唇に甘く紡がれる言葉。手を伸ばせば触れることができ、押し倒すことすら可能な状況で美女にすり寄られてはたまらないものがある。
「だ、男女七歳にて同衾せずといいますからね!オレは居間で寝ますからどうぞすずしろさんはここの布団で寝てください!」
だが結局そんな度胸がないのがオレであり、慌てて部屋を出ていこうと後ろへ下がる。例え相手が人外だろうと一人の女性。親しかろうが弁えるべきところは弁えなければいけないだろう。
だが。
「あぅっ!?」
その足は進まなかった。進まなかったのは足だけではなく体も、頭すらもこの空間から出られない。
なぜならそれは―オレの体の行く先を阻む見えない壁ができていたから。
「…嘘」
振り返り触れてすぐさま理解する。これは神社を覆っていた結界と、先ほど玄関で遮っていた結界と同じものだということを。神社を囲んでいたそれが今はこの部屋の出入り口を塞いでいる。行き来できる空間が縮んできているその理由はただ一つだけ。
「逃げないでくださいよ、ゆうたさん」
オレを捕らえることに他ならない。この結界を張った人物が誰かなんてどれほど鈍くても目の前の女性しか思い浮かばない。
すなわち―白蛇のすずしろさん。彼女は最初からオレを閉じこめるためにここに来てようやくその目的を果たしたという事になる。
「貴方だったんですか…この結界はっ!!」
「ええ、そうですよ」
オレの言葉に悪びれることなく彼女はうなずいた。
「…結界をとくことはできない、なんて言ってたのにですか」
「嘘は言ってませんよ。私は自分の作った結界しか扱えないと言っただけでとくことができないとは一言も言ってませんからね」
確かに彼女はそんなこと一言も言ってなかった。だがこんなの嘘と大して変わらない言葉の綾ではないか。
「何で、こんなことを…!?」
本当は―気づいていた。
相談した時すずしろさんは唯一外との連絡手段である十手を取り上げた。よくよく考えればそれはおかしいことだった。この町には神通力の仕えるカラス天狗の先輩がいる。それに九尾の稲荷であるいづなさんもいる。どちらも人間よりも遙かに格上だ。先輩は物知りだし神通力で結界をどうにかできるかもしれないし、いづなさんに至っては神様と崇められる存在だ。そんな彼女の手を借りればこんな壁たやすく消し去ることもできよう。
だというのに先ほど連絡しようとしたときにタイミング良
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