寂しい雨に、抱擁を

静寂の森の中。耳を澄ませて聞こえてくるのは木々が揺れ動く音のみ。温かな日差しはなく、薄暗い木陰の下。人気の全くない暗い森の奥で私は―私たちは二人寄り添っていた。

「スザンナ、今日も誰も来ないね」
「それがいつもの事でしょう、リリー」

雄しべの私―スザンナ
雌しべの貴方―リリー

「あっ♪スザンナ、気持ちいいよ♪」
「んんっ♪私もよ、リリー♪」

互いの体を互いの掌で撫でまわす。その感覚に体を震わせ、甘い声を漏らしあう。そうして快感に喘ぎ、私たちは交わりあう。
そんな日々を何日続けていたのだろうか。
生まれてずっと一緒にいるリリーと何度体を重ねたことだろうか。
数えきれないほどの快楽を感じ、わからないほどの絶頂を迎え、そうして私たちは今の今まで互いを求めあってきた。

―だけど、足りない。

二人だけでは物足りない。決定的なものが足りていない。胸の奥から求めるものが、下腹部が疼いて止まない原因が、私たちにはない。
だからこそ今日も私たちは埋めあうように互いを求める。今までそうしてきたように快感で湧きだす感情を誤魔化していく。

―でも、足りない。

重なるたびに欲求はハッキリしてくる。欲しい欲しいと体の奥から喚いて止まない。それでもいくら叫んでも誰もこの森には訪れない。
暗い暗い森の奥。
日の光のない木下。
野鳥の声も届かない木陰の傍。
誰も来ないから私たちは今日も互いを求めあう。額を合わせ、指を絡め、足を絡めて繋がりあう。

「二人だけって、寂しいね」
「寂しいわ、二人だけだもの」

共に囁き体を擦り合わせる。柔らかな胸がリリーの胸に押し付けられて潰れる。にちゃりと間には粘っこい蜜が滴り水質的な音を響かせた。
音は誰もいない森に大きく響く。それがまた寂しくて、悲しくて、私とリリーは埋めあうように下腹部へと手を伸ばして―

「―…ん?」
「あ?」

ばさりと、数枚の葉っぱが散った。伸ばした手が止まり二人で空を仰ぎ見る。

「スザンナ、何かな」
「静かに、リリー」

しばらくしているとまた何枚か葉っぱが落ちる。じっと見続けていると今度は大きな黒いものが落ちてきた。

「とぁっ!」

すとんっと華麗に地面に着地したのは一人の人間だった。
暗い森の闇よりもずっと黒い闇を纏った人間。胸に膨らみは見られず、髪の毛も短い。上も下も同じ黒色の衣服を着こんだ人間は片腕に果物を抱え込んでいた。
紛れもない私たちとは違う存在。魔物ではない、ちゃんとした人間。
だがそれだけではなく、ふわりと香ってくる精の香り。鼻孔をくすぐるだけでも下腹部が疼き、ごくりと喉がなる。

―紛れもない、男性だ。

どうしてこんな人気のない場所にいるのだろう。疑問に思ったがそんなことはどうでもいい。

人だ。
私たち以外の人だ。
それも、人間の男性だ。

彼は辺りを見渡し、私たちに瞳が向く。まるで夜の闇を押し固めたような色をした瞳が私たちを捕らえた。

「あ」
「あ」
「…うぉあ」

私たちを見つめて顔を赤くし、口元に手を当てる彼。あたりを見渡し改めて私たちを見据えると申し訳なさそうに頭を下げた。

「すいません、お邪魔しました」



それが『私―スザンナ』と、『ワタシ―リリー』と『彼の―黒崎ユウタ』との出会いだった。










「や」
「あ、ユウタ」
「いらっしゃい、ユウタ」

今日も今日とてユウタがここへと訪れる。どうやらここまで食べ物を探しに来ているらしく、そのせいかワタシ達と会うときはいつも片手に何か果物を持っていた。今日は丸く赤い果物をいくつか大切そうに抱えている。

「食べる?」
「うん、食べる」
「頂こうかしら」

ワタシとスザンナはユウタの手から果物を受け取った。
リリラウネであるワタシたちにとって果物を食する機会などまずない。自分から動けない以上誰かにとって来てもらうしかない。
ユウタが果物に歯を立て食べるのを真似てワタシもスザンナも同じようにする。初めて口にする果物は思った以上に甘酸っぱかった。

「これ、美味しいね」
「とても美味しいわ、これ」
「そっか。そう言ってもらえてよかったよ」

ワタシ達の言葉にユウタは微笑み、食べかけた果物に再びかみついた。口の端から果汁が滴り地面に落ちる。

「ついてるわ、リリー」

その様子を見ているとスザンナに唇を拭われた。いつもはもっと過激なことをしているのにユウタが傍に居るだけでそれだけでも恥ずかしい。

「…」

だけど、ユウタはそんなワタシ達を見て目を細めた。
ユウタはよくワタシ達を眩しそうに見つめてくる。それはどこか寂しげで、触れてしまうだけで崩れそうな儚いもの。どうしてなのか聞こうにも聞いてはいけない気がする。
それでもスザンナも同じ気持ちだった。聞きたくて聞きたくてうずうずして、それでも聞
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