男性の体というのはどうしてこうも不思議なのだろうか。
女性であれば脂肪が付きどうしても丸みを帯びた体つきとなってしまう。それはこの王国のレジーナ姫や勇者がいい例だ。だが男性の体には女性のような胸はないし、脂肪の柔らかさというのもあまりない。ためしに抓ってもそれほど肉はない。いや、それは彼が鍛えているからか。
私の目の前で半裸になっているユウタ。その体は余計な肉はそぎ落とされ絞られたものとなっている。腹部は割れ、胸も堅く肩幅は私よりも広い。がっしりしているとは言えない細身だがこれはこれで逞しさを感じるものだ。
「…ふむ」
私は普段付けぬ聴診器を耳にユウタの鼓動を聞いていた。規則的に鼓動を刻む心臓はこれと言っておかしなものはない。別世界といえ同じ人間なのだから体の各器官にそこまで違いはないのだろう。
「…もういいですか?」
「静かに。もう少し聞かせてくれ」
「…」
その言葉に小さくため息をつくユウタだがお構いなしに聴診器に意識を集中する。先ほどから変わらない一定の鼓動を聞いているだけなのだが、なぜかとても落ち着く。ずっとこうしていたいとは言わないが少しばかり癖になりそうだ。
だが聴診器を押しつけただ鼓動を聞いているだけではわからないことがある。鼓動だけでは人の全てを推し量る事なんてできやしない。
私は聴診器をはずして彼を見据えた。
「少し良いかね?」
「はい?」
返答を聞く前に私は耳をユウタの胸に押しつけた。
「わっ!?何してるんで―」
「静かに」
「…」
その一言でユウタはおとなしく体から力を抜いた。どうやらこれも必要なことだと思っているらしく抵抗はしないようだ。いや、実際に必要なことだが。
先ほどよりもわずかに速まったような気がする鼓動。それから触れた肌を伝わる私以上の体温。鍛え上げた肉体は思った以上に堅いもので私は思わず息を吐いた。
これが男性というものか。
堅いのだがとても心地良い。高い体温がとても心安らぐ。瞼を閉じればそのままうっかり眠りに落ちれるほどに。
やはり男性というものは不思議だ。肉体的構造が異なることは知っていたが本で見るのと実際目にするのとでは大きく違う。しかも今頬が触れるほどの距離にいるのだ、これではもっと知りたくなってしまう。
「…なぁユウタ。舐めても良いかね?」
「ぶっとばしますよ?」
流石にこれはだめだったか。いやうっかりしていた。
だが肌が触れ、鼓動を聞き、指でなぞって、言葉を交わして、ようやくユウタの事がわかってきた。
体のどこにも現れない勇者の証。それはきっと彼がまだ目覚めていないからだろうと結論づける。他の者もこちらに喚ばれてすぐに目覚めるものはいなかった。つまるところユウタはまだまだ準備期間というわけだ。
ただ、もう一つわかったことがある。
「ユウタ、君は魔法が使えない体質だ」
「…はい?」
「魔法だよ、魔法」
この国でも盛んに用いられる、日常生活に欠かせないものから戦闘の手段となるもの。手のひらサイズの光の玉で闇夜を照らしたり、軍勢を滅ぼせる威力を備えたものと種類も用途も様々なものがある。
だが欠かせないのが魔力。全ての魔法に通じる必要不可欠なものだ。
「ユウタは魔力を作る器官が発達していないんだ」
「…はぁ。まぁ、魔法なんてオレのいたとこじゃありませんでしたからね」
「魔法とは無縁の世界にいた人間ならそうなるのも仕方ないだろう」
だが、一概にすべての別世界の人間がそうだとも言い切れない。逆にとてつもない潜在能力と魔力を備えた人間も呼び出されることがあるらしいのだから。
「それでも魔法が使えない体質でも魔法は扱えるさ。この王国の騎士たちが皆つけている防具には皆退魔の力を備えている。魔法を弾く魔法ということだ」
「別にそんなものがあったところで何か変わるんですか?」
「大分変わるぞ。肉体強化や治癒、一度発動すれば山一つ消し飛ぶほどのものだってあるのだからな」
それだけではない。空間圧縮や転位、はたまた兵器となる混合生物の創造や肉体へ刻み込む人体実験と数えればきりがないほど存在する。
「勇者の力が覚醒しないのならせめてそういう最低限の魔法知識や付与された防具を用意すべきだろう。相手するのは魔物であり魔法を用いた戦いを得意とするのだからな」
「…魔物ねぇ」
ユウタは何やら意味深に呟く。彼は魔物という存在をまだわかっていないのかもしれない。
別世界からきた人間なら彼女達は美女にしか見えないだろう。そんな相手を魔物と呼び殺すというのは納得できないかもしれない。
かくいう私も魔物を殺したいほど嫌ってはいない。研究には彼女たちの助けが必要なこともあるのだ、邪険にしては可能性を潰すこととなる。
だが、身に危険が及べば敵対はする。あのクイーンスライムのように殺しはしな
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