凍てつく孤独に、温もりを

日々吹雪に見舞われる山にいるアタシはほぼ毎日山の景色を眺めていた。理由は単純。魔物ならば常識であり当然のこと。アタシたちの食事となる精を提供してくれる永遠の伴侶を見つけるためである。
だけどここは雪山。火山であっても雪が降り積もる冬の山。まず人が訪れることなどないし、仮に訪れたとしてもここにはアタシ以外にも沢山の魔物がいる。
ラーヴァゴーレム。それは魔物の中でも凶暴な部類にはいる存在だ。この雪山に住む魔物と比べればアタシは危険と扱われる。陽気で友好的なイエティや冷たくとも男性を必要とするグラキエス。遭難した人を導いてくれるゆきおんなに海辺には意地っ張りなセルキーもいる。その中でラーヴァゴーレムに嬉々として会いにくる人などまずいないだろう。
それでもアタシは今日も山を眺め続ける。

「…誰か来ないかなぁ」

普段と違って晴れた雪山の山頂でアタシは小さく呟いた。冷える外気はアタシの心を凍てつかせ精神をすり減らしていく。凶暴さなんてなりを潜めて考えは後ろ向きになってしまう。
このまま誰も来ないんじゃないかと。
ずっとアタシは一人じゃないのかと。
降り積もった雪に体を預けるようにアタシは倒れこんだ。溶岩から生まれたせいか雪はすぐに溶け白い蒸気を発して消える。その様を半目で眺めていると―

「―…ん?」

蒸気とは異なる煙が上がっているのを見つけた。真っ白な景色の中立ち上るそれは空へとのびて薄まり消える。だがはっきり瞳に映ったものは確かに蒸気とは違うものだった。
あれは…煙?
火を焚いた時に出るものだ。主に薪を燃やして出てくるそれはこの場所ではあまりにも珍しい。
というのもこの場所にいるのはほとんど魔物。もしくは既に夫持ちの魔物。魔物であればこの雪山に順応しているだろうから火を必要とはせず、また夫持ちの魔物ならば相手と共に体を温めあっているはずだ。相手を感じたいと願う魔物にとって火の熱はただの邪魔にしかならない。
なら、考えられる可能性は一つ。

「…もしかして」

あの煙の下にいるのは一人の人間だということ。いや、雪に慣れない魔物だという可能性も女性だということもありえなくはない。だが、誰がいることに間違いないし、男性である可能性もないわけじゃない。
なら、どうするかなんて悩む暇もない。

「行こう」

決断したアタシはすぐさまその場から立ち上がり煙の立ち上る場所へと向かって進んでいくのだった。








行きついた先にあったのは一つの山小屋だった。きっと登山してくる人のために作られただろうそれは一見ぼろく映るのだがよくよく見るとあちこちちゃんと手を込めて建てられている。もしかしたらジャイアントアントが建てたのかもしれない。
煙はこの山小屋から。屋根の上に飛び出した煙突からだ。
間違いない。ここには誰かがいる。
男性だろうか。女性だろうか。魔物だろうか。できることなら男性であってほしい。そう願ってアタシは目の前のドアをノックしようと手を出したその時。

「おわっ!」

空から降ってくる声に顔をあげると声以外にも真っ白な雪が降ってきた。きっと屋根の上に溜まり積もったものだろうそれは全て流れて真っ白な山を作る。
降り積もった雪の上に大きな山となる大量の雪。その頂に聳え立つのは二本の脚だった。

「…」

紛れもない人間の足。体の線はわかりにくいが見た目的に細身な方だろう。屋根の雪かきをして落ちてしまったのかもしれない。
じっと眺めていると二本の足がじたばたともがく。上半身が埋まったせいで呼吸がろくにできないのだろう。慌てて足を引っ張り上げた。

「ぶはぁっはぁ…ぁ…ぁ?」

逆さ状態になったその人と目があった。

純白な雪と対なすような、真っ暗な闇色の瞳。

見つめるとそのまま吸い込まれそうな不思議な瞳がアタシに向けられる。すると驚きの表情に変わり、次いで困った様な笑みに変わった。

「…あ、どうも」

真っ白な雪に塗れながらも笑みを浮かべるのは紛れもない一人の男性。
それがアタシと黒崎ユウタという男性の初めての出会いだった。









山小屋の中はあまりいいとは言えないものだった。それでも作りはしっかりとしているのか寒さは入ってくることはなく、暖炉もついている。これなら体が凍えることはないだろう。
暖炉の傍に置かれていた鍋の中身をユウタはカップへ移しアタシの前に差し出した。湯気の立つそれは雪とは違う白いもの。ほんのり香るまろやかな匂いはきっとミルクだろう。

「驚いたなぁ」

自己紹介を互いに終え、ユウタは自分の分のミルクを注ぐ。顔には先ほどとはまた違うどこか嬉しそうな笑みを浮かべながら。

「こんな雪山なのにオレ以外にも人がいるなんてさ」
「…アタシ、ラーヴァゴーレムだよ?」

この姿を見れば誰もが理解できるはずだ。火山
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