「…む。そこか」
ようやく見つけたときには目的の人物は二人で紅茶を嗜んでいた。その人物は男だし、以前見たところそんな優雅さを感じさせなかった振る舞いからおそらく相手の趣味だろう。
真っ白なテーブルクロスの上に乗せられたお菓子の数々。どれも細かなデザインと甘い香りを漂わせる高級感溢れる貴族御用達のもの。それだけではなく真っ白な陶器のカップは豪勢な装飾が施され一見しただけでもかなりの値がするものだと理解できる。さらには傍らに女中。紅茶の入ったポットを抱え物静かに二人を見つめ、時折目的の人物が善意で誘うように声をかけ、応えるように笑みを浮かべている。
何の変哲もない午後のお茶会。紅茶とともに雑談を楽しむありふれた日常の一時。だがそこにはこの国を担う勇者が一人混じっているのだから普通の人間からしてみれば話すことははばかられるだろう。
しかし勇者がいようが女中が佇んでいようが気が引けるわけじゃない。王族として生まれ育った私にはその程度何の障害にもならない。
私はつかつかと歩み寄ると一言声をかけた。
「おい」
それに対して三者三様の反応を示す。
「レジーナ、様…?」
「…え?何?姫様何用?」
「…ん?ん?どしたの?」
女中は驚き口を開け、勇者は露骨にいやな顔をし、目当ての男はぽかんと気の抜けた表情を浮かべた。
それくらいならいい。女中など話しかければ誰でもこのような反応だし、このナンパ者もいつもこうだ。
ただ一人、見慣れない反応を返したのはやはりというか目的の者。王女が声をかけたというのに一般人相手と大して変わらない表情に私は呆れてため息をついた。
まぁ、これくらい抜けてたほうがこちらも変に気を張らなくてすむのだが。
「おい、ユウタ。お前に話がある」
「ん?オレ?」
肩を掴んで立たせて私はユウタの手に一つの書簡を手渡した。彼は不思議そうな表情を浮かべながらも書類に目を向ける。
そして一言。
「…なんて書いてあるの?」
「…」
ああ、そうだった。こいつは異界の人間だったことをつい忘れていた。異界から来たのなら文化圏も違うのだから文字も違って当然だろう。
なら口で言ったほうが早い。元々書簡もただの形だけなのだから。
私はユウタの胸に指を突きつけて言った。
「お前これから私の護衛な」
いたって単純、いたって明快。バカでもわかるただの一言にユウタは遅れて反応する。首をかしげ、ぼそぼそと唇を動かし言葉を反芻でもしているのだろう。
「…え?」
「はぁっ!?」
反応したのはユウタだけではなかった。それどころかそいつは椅子を倒しながら立ち上がり、こちらへ詰め寄ってくる。
「ちょちょちょ!何言ってんだよ姫様!」
「聞こえなかったか?ユウタの持っているそれにも書いてあるだろう、アイル」
アイルはユウタの肩からのぞき込み書簡の内容を確認する。その最後にあるのは父上であるこのディユシエロ王国国王のサイン。正式な書簡であり、この国に存在する者誰もが逆らえないものであると証明するものだ。
「…いやいやいや、姫様に護衛なんて必要ないだろ!あんた一人で軍壊滅できるほど強いんだから今更護衛の一人二人つけたところで何もかわんねーだろ!!」
第一、とアイルは言葉を続けその細長い華奢な腕で守るかのようにユウタに巻き付かせた。
「ユウタ君は有望な勇者になる素質があるんだぜ?この国の希望がまた一つ増えるんなら国民もあんたら王族も万々歳じゃねーか!」
「だからその素質を私が確かめてやろうというんだ」
「いくら姫様とはいえ許せねーぜ!ユウタ君は俺様達が勇者にしてやるんだからよ!」
「ふふん」
ここまで食ってかかるとは珍しい。それだけこの男がアイルを惹きつけて離さないと言うことだろう。
何とも面倒くさい。だが、所詮勇者であると言うだけのアイルには私の決定をどうにかできるわけがない。
「たった一人の勇者の発言で私の決定が覆せると思うのか?」
「…いや、俺様だけじゃなくてあの女嫌いも同じ意見だろうぜ」
「だとしても、この私ディユシエロ王国王女、レジーナ・ヴィルジニテ・ディユシエロの発言がどれほどのものかわかっているのか?この国における戦争事は全部私に決定権がある。全軍の指揮権も、お前達勇者の決定権もな」
それとも、と私はアイルに体を寄せた。耳元に口を寄せ、側にいる二人に聞こえないように囁いた。
「お前の秘密をここでバラされたいか?」
「っ!」
「そこの女中はともかく、お前がやたらと執着してるユウタの方は…どうだろうな?」
面構えが平凡でよくわからないユウタのことだ、バラしたところで嫌うような反応をとるはずもないだろう。
だがこの秘密はアイルの存在を根本から覆す事実。国民に、騎士達に知られてはならない隠すべきこと。そしてアイル自身が誰にも知
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