「…今日で最後になっちゃうのかな?」
双子の姉が、そう言った。
そこは家族でよく来た動物園の門の前。
高校に上がる前の春休みのときだった。
「何が?」
オレは隣で言った。
「私達ももう高校生じゃん。それだからこうして、皆で一緒に家族旅行できる機会も減るのかなぁって。」
「そりゃ…まぁな。」
「あーあ、やーだなー。高校生になりたくないなー。」
そんなこと言いながら、門の下を共にくぐった。
先に行った母達に追いつくために。
今思えば、あの言葉を。
『皆で一緒に』って言うあの意味を。
もっと噛み締めておけばよかった。
そう、思った…。
「…ん?」
目が覚めた。どうやら眠っていたらしい。
寝起きではっきりしない頭で何が起きたか確認する。
ええと…オレは。
かぐやさんと鬼ごっこして…んで、かぐやさんを捕まえて、豪華賞品である宝箱を開けたら煙に包まれて…。
なぜだかとてつもなく眠くなったんだよな…。
…何で?
「起きられたんや?」
上から声が降ってくる。
眠い目をこすりながら見上げるとそこにはかぐやさんが微笑んでオレを覗き込んでいた。
「もう夜や。随分御疲れやったのどすね。」
「あんなモン仕掛けといて何言ってるんですか…。」
さすがに気付く。あの煙が眠気を催させるタイプの物だってことぐらい。
身をもって実体験したし。
「ここは…?」
目がよく見えるようになって気付く。ここはあの一面紫の部屋じゃない。
白い壁に小さな明かり。窓は二つで生活感溢れる部屋。
おそらくここはこの店の二階、かぐやさんの部屋だろう。
オレの下に柔らかなベッドがあるのが気にかかるが…。
…ってそこじゃない。
なんか体勢がおかしいぞ?
腹の辺りに温かさをもつ重みを感じて、かぐやさんはオレの上から声をかけてきて…。
今、この状況はいったいどうなってる?
かぐやさんは相変わらず微笑んでるだけ。
起きようとしてもなんだか体が異常なまでに重く感じる。
まるで体重が二人分に増えたかのように。
…うん?二人分?それじゃ…腹部に感じる温かき重みは…まさか?
「か、かぐやさん!?これはいったいどんな状況なのでしょうか!?」
どーやらオレはかぐやさんに跨られていた。って何で!?
「どうしてあなたはオレの上に跨ってるんですか!?」
「それをうちに言わせる気どすか?いけずどすなぁ…////」
なぜ赤くなる!?
てか、さりげなく指をオレの体に這わせないでもらいたい!
胸のところでのの字を書くな!
わき腹をなで上げるな!
「ふふふ、知ってまっしゃろか?獣ちゅうのはよお自分の昂ぶりが抑えきれへん時期が来まんねん…。」
「え?」
笑みを浮かべるかぐやさん。
だがその表情はいつもと違う。
眠る前に見たあの妖艶な笑みだがどことなく違う…。
頬を赤く染め、息を荒くし、目尻をトロンと下げたその顔は、
女、そのもの。
「っ!」
「今は春、どすなぁ。」
かぐやさんは顔を鼻の先が触れるか触れないかの所まで近づける。
かぐやさんの甘い吐息が、オレに直接かかる。
普段と違うのは一目瞭然。
明らかに興奮しきっている。
さっきの言葉からして、かぐやさんは『稲荷』。
『稲荷』は『狐』。
『狐』で、春に抑えきれない昂ぶりがくる時期といえば…。
「っ!発情期、ですか…!?」
「正解。賢い人は好きや…。」
「!!」
やばい!この状況はやばいぞ!
目の前にいるのは稲荷で女のかぐやさん。
その下にいるのが人間で男のオレ。
これには流石に気付く。このあとどんな展開になるかって事に…!
「か、かかぐやさん!?流石にこれはまずいでしょ!いくら発情期だからってそんな、オレみたいな何処の馬の骨ともしれない男とするのは!」
「あらぁ?何でそないなつれへんこと、しゃべるのどすか?」
そっと、後頭部に腕を回された。
逃げないための拘束とでも言わんばかりに…。
「ずーっと前から狙っとったのどすよ。ずーっと、ずっと。待ち望んでおいやしたのどす。」
かぐやさんの甘い香りがオレの鼻腔をくすぐっていく。
「ゆうたはんのこと…。」
かぐやさんの右手が頬に添えられる。左手は変わらずオレの後頭部を拘束したまま。
「ずっと前から…」
なぜだか、かぐやさんに触れられたところが熱く疼く。
「好きどすねん…。」
疼く体へ降り注いだのはかぐやさんの気持ちを乗せた言葉。
それはオレの中の力を削いでいく。
抗う力を、抵抗する気力を…。
「こーやって近くまで寄ったりして…。」
むにゅりと、オレの胸板に柔らかなものが押し付けられる。
見なくともわかる。かぐやさんの胸の感触。
学生服越しだというのにその感覚はオレを狂わせた。
「それに…ゆうたはんもではおまへんのどすか?」
「…え?」
「体、抑えきれまんねん?」
「…っ!」
そこで気付く。体がいつもと違うことに。
普段の正常な時と
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