雪の孤独へ、抱擁を

しんしんと雪が降り積もる雪原地帯。音のすべてが雪に吸い込まれてしまったような、そんな静かな景色を見つめアタシは海面を尾鰭で叩いた。
今日も海は穏やかで波を寄せては引いていく。寒い中でも心地よい水音は寂しい心を癒してくれる。

「…」

でも、足りない。
こんな波音だけじゃ、足りない。
いくら魔力の篭った毛皮が暖かくても、いくら毛皮から安堵を得られても、それでもアタシの寂しさを埋めてくれるものはない。
誰かと関わってみたいと思っても雪原を通る人影はない。話してみたいと近づきたくてもいないものは仕方ない。
ここで人を待っていても誰も来ない。毎日期待してもただ虚しいだけ。
ここには誰もいないのだから。こんな雪原地帯に人が来ることなんてまずないのだから。アタシは一度も見たことはないのだから…。
今日はいつもと同じでただ一人。
今日もいつもと同じで寂しい日。

「…つまんない」

そっと呟いた一言は白い雪原に吸い込まれていった。
今日はもう帰ろう、そう思って海へ飛び込もうとした、その時だった。

何かが海に落ちる音がした。

「!」

顔を上げてみると沖の方で大きな水柱ができていた。周りを見渡すが船らしき影は見えない。雹かと思って空を見てみるも穏やかに降り積もるのは白い雪のみ。
それなら一体何が落ちたのだろう。
アタシは興味のままに海へ飛び込み、水柱の上がったところへ泳いでいく。
そして、見つけた。

「…!」

それはアタシの探していたものだった。
それがアタシの求めていたものだった。
見たことのない金色のボタンをつけた黒い服に同じ素材で出来ている黒いズボン。揺れるのは海底よりもずっと濃くて黒い髪の毛。平凡そうだけど、どこか不思議な顔立ちでアタシと同じぐらいの年齢に見える。
人間だ。
人間の、男性だ。
辺りを見回すも荷物らしきものはない。ということは旅人じゃないのかもしれない。
だけど、さっきの水柱からして何もない空から落ちてきた。
もしかして…転移魔法?ならこんな不可思議な現象もわかる…それにしては魔力を感じられないけど。
って、そうじゃない!

「助けないとっ!」

こんな雪の降る海の中にただの人間が長時間浸かっていたらそれだけで死んでしまう。早く、彼を引き上げて温めてあげないと。
アタシは彼の服を掴んで泳ぎ、海岸へと引きずり上げた。見た目は細いのに思った以上に重い。きっと鍛えているのだろう。
彼の安否を確かめるため胸に耳を当てる。服越しだけどちゃんと心臓の音が聞こえた。胸も上下してるし呼吸はある。
よかった、そう思い改めて彼の顔を見た。

「…」

何度見ても不思議に思える。顔立ちはここらじゃ見かけないものだし、この黒髪も同じく見ない。雪原とは全く逆の色をした服と髪の毛。
どこから来たのだろう。この特徴からしてジパングからだろうか?
疑問に思うけど今はそんなことを思ってる暇がないのに気づく。ここは雪の降る海岸だ。濡れた体ではすぐさま凍ってもおかしくない。
どこか寒さから身を守れるところは…たしか近くに洞窟があったはずだ。あそこなら寒さから身を守れるはず。いざとなったらアタシが毛皮を貸してあげればいいんだし。
アタシはすぐさま彼の体を抱きしめて洞窟の方へと進み始めた。








普段通り雪の降る海。生き物らしい姿は見えずただしんしんと白い粒が降り注いでは溶けていく光景を彼は洞窟の傍に寄りかかって見つめていた。時折寒そうに両手を擦り合わせ、はぁっと白く染まった息を吐く。
そんな彼の隣にアタシは立っていた。

「ここらずっと雪続くんだ」
「そりゃここら辺って雪原地帯だもの。当然じゃない」
「雪原地帯なのにその格好はどうなんだろうな」
「なによ、命の恩人に対して馬鹿にしてるの?」
「いや、可愛らしいなと思って」
「かわっ!」

突然言われた言葉にアタシの体温が一気に上昇するのを感じる。だけど彼はそんなアタシに気づかずからから笑って話を続けた。

「昔親戚の子供がそんなような被り物してたのを思い出してさ。ペンギンとアザラシと、あとキツネとか。冬用の帽子なんだけどこれがまた可愛らしいんだ」
「な!なによ!子供っぽいっていいたいの!?」
「子供ならそんな露出の多い格好しないだろ…」

穏やかな笑みを浮かべてこちらを見つめる二つの瞳。それはどんな海底よりも、どんな夜よりも暗くて濃くて、深い闇の色をしていた。
黒髪だけではなく、同じ色をした瞳。全身黒ずくめの姿をしたジパング人。
黒崎ユウタは寒さに身震いをして洞窟内の壁から体を離した。

「外に比べたらマシだろうけど…随分ここも寒いな」
「アタシに言わせたら雪原地帯でコートも羽織らないからだと思うわ」
「それ言ったらヴァルナーは雪原地帯でよくそんな露出の多い格好してるな」
「アタシはセルキー
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